大切な人が亡くなったときに行う「エンゼルケア」は、故人の尊厳とご家族の心を支えるために必要なものです。ただ「どこまでがエンゼルケアに含まれるか」は専門家によって判断が分かれます。ここでは解釈が分かれがちなこの「エンゼルケア」を取り上げて、「エンゼルケアとはそもそも何か」「エンゼルケアの流れ」「エンゼルケアの目的」「エンゼルケアを行うのはだれか」について解説していきます。
エンゼルケアとは
「エンゼルケア」とは、死後に故人に対して行う処置全般を指す言葉です。
この「エンゼルケア」をする人は、大きく分けて以下の2つです。
A病院の看護師やその提携業者、介護福祉士など、介護の分野にある人
B葬儀社や納棺師など、葬儀に関係する分野にある人
また、料金に関しても大きく異なります。無料で行われるケースもあれば、50,000円程度の費用がかかることもあります。これは、「エンゼルケアとはどこまでの処置を含むと考えるか」が、各業者・各専門家・各サイトによって異なるからです。
エンゼルケアは何をする?
「エンゼルケア」という言葉は非常に多くの意味を持つ言葉であり、「ここまではエンゼルケアであり、ここからはエンゼルケアではない」「ここまでは看護師の仕事であり、これ以降は葬儀社の仕事である」などのように明確に定められるものではありません。
ただ、ここでは目安として、「比較的多いと思われるケース」について紹介していきます(A.Bの表記は前述によります)。
- ・医療器具の取り外し……故人が着けていた医療器具を取り外します。これはBは行わず、Aが行います。
- ・清拭……体をきれいに拭き上げることです。多くの場合、亡くなった直後にAが行います。
- ・体液や排泄物の処理……基本的にはAが行います。ただし、顔をふっくらと見せるための綿入れの作業などはBの業務内容に含まれることが多いといえます。
- ・体の傷や穴への処置……体についた傷や穴を、目立たないようにするための処置です。Aが行うこともありますが、死に化粧の一環としてBが担当することもあります。
- ・着替え……Aが行うこともありますが、Bが行うこともあります。Bが行う場合は、明確な「死に装束への着替え」「本人が好きだった服への着替え」であることが多く、そのときに着せた服のまま火葬まで行われることを前提とします。
- ・エンゼルメイク……いわゆる「死に化粧」です。「ラストメイク」ともいわれます。Aが行うこともないわけではありませんが、B、そのなかでもとりわけ「納棺師」がこれを主に担当します。
すでに述べましたが、ここで紹介したのは「体感的に見て、比較的多く見られると判断されるであろうケース」での話です。実際にどこまで行うか・どこまでできるかは、施設やサービスによって異なります。
湯灌やエンバーミングとの違いは?
「エンゼルケア」と分けて考えたいものとして、「湯灌」と「エンバーミング」があります。
湯灌とは、故人の体を清めるための作業です。「清拭」と似ていますが、これは特別な湯船を使って行うものです。Aがこれを担当することは基本的にはないと考えてよいでしょう。Bがこれを担当することになりますが、特殊な道具と技術が必要となるため、「ほかのエンゼルケアはできるが、湯灌はできない」といわれることもあります。また、湯灌を担当する納棺師は特に「湯灌納棺師」などのような名称で呼ばれることもあります。
なお「エンバーミング」は、専門的な技術をもって、胎内の血液などを抜き、防腐剤を使用して、故人のお体が傷まないようにするための技術です。またこのエンバーミングにはしばしば、「復元作業」も含まれます。たとえば事故で体の一部が失われた場合に、それを目立たせないようにするための処置を施すことです。
「エンゼルケア」よりもさらに多くの機材を必要とするものであるため、エンバーマーと呼ばれる技術者がこれを担当します。
なお、ごく一部ではありますが、弊社のように「湯灌もエンバーミングもエンゼルケアも行える葬儀社」もあります。
エンゼルケアを受けるまでの流れ・手順
ここからは、エンゼルケアを受けるまでの流れを紹介します。
なお今回は、病院で亡くなったケースを想定しています。
※上でも述べましたが、どこまでエンゼルケアが行われるかは施設ごとで異なります。ここで紹介するのは一例です。
①身内への連絡
- 1.病院から危篤の連絡を受ける
- 2.ほかの人に連絡をしながら、病院に向かう
②病院でのエンゼルケア
- 3.死亡宣告の告知を受ける
- 4.看護師などが医療器具を外す。場合によっては縫合などの措置が取られる
- 5.体内の内容物などの処理を行う
- 6.目や口、鼻などのケアを行う
- 7.清拭を行う。病院によっては、洗髪や足湯が行われることもある
- 8.鼻や口などに綿詰めをする。必要に応じてオムツなどをつける
- 9.衣服が手元にあり、着替えを希望するのであれば着替えを行う。病院着での退院も可能
- 10.葬儀会社に連絡を行い、寝台車を呼ぶ
- 11.寝台車で安置場所に移動。ドライアイスなどでの冷却処置を本格的に行う
なお、ご家族が希望すれば、末期の水をあげたり、清拭に参加したりすることが可能になる場合もあります。
④葬儀社・納棺師によるエンゼルケア
- 12.着替えを行う
- 13.クレンジング~マッサージ~蒸しタオルによる処理で、顔の硬直をやわらげたり、汚れを取ったりする
- 14.【男性の場合】髭剃りを行う
- 15.保湿を行う
- 16.エンゼルメイクを行う。ファンデーションで顔の色味を整え、チークで血色を良くし、口紅で唇に赤みを入れる
- 17.【主に女性の場合】マスカラなどのアイメイクを行う
ここでは「化粧は主に葬儀社・納棺師による」としましたが、病院でここまで行うケースももちろんゼロではありません。また病院のなかには、「どこまで行えばいいかを聞く」というところもあります。
なお納棺師によるエンゼルメイクの場合は、「ご遺体」をより自然に見せるための特別なメイク道具が選ばれますが、希望すれば故人が愛用していたメイク道具を使うこともできます。加えて、「口紅を差す」など、一部の作業をご家族が行える場合もあります。
また、納棺師にお願いしておいた場合、翌日にさらにメイクのお直しをしてもらえる場合もあります。
エンゼルケアをおこなう3つの目的
ここまで「エンゼルケア」について解説してきましたが、それではなぜそもそもエンゼルケアを行うのでしょうか。
これには3つの理由があります。
・感染症を予防する
・ご遺体を清潔に保つ
・ご家族をケアする
それぞれ見ていきましょう。
感染症を予防する
人は、亡くなった瞬間から腐敗が始まります。体内では細菌が増殖していきますし、亡くなった方の体液に触れると感染症にかかる確率が非常に高くなります。
このようなリスクを避けるために、体液を留めたり、受傷部分をフォローしたりといったエンゼルケアが行われているのです。
ご遺体を清潔に保つ
人は息を引き取ると、自分の身だしなみを自分で整えることはできません。
ご遺体が苦悶に満ちた顔をしていることもありますし、体が清潔な状態ではないこともあります。
このような状態でお見送りをされることは、故人にとっても辛いことだと思われます。
そのため、故人の尊厳を守り、故人の人間性を守るためという目的でも、エンゼルケアは実施されています。
ご家族をケアする
エンゼルケアは、故人のためだけではなく、大切な人を亡くしたご家族のために行われるものでもあります。
「苦しんだお顔のまま見送りたくない」「元気だったころの姿でお見送りをしたい」「本人が愛した服を着せてあげてお別れを言いたい」と考える人は多くいます。そして、「故人のためにできることがまだ残されていたこと、またそれができたこと」で、納得感を得ることができるようにもなります。
「大切な人のために、最後まで自分ができることを行えたこと」が、大切な人の死を受け入れていく過程のひとつとなるわけです。
またここでは「ご家族」としましたが、参列する人に対しても同じことをいえるでしょう。
エンゼルケアは葬儀社でも可能
このように、エンゼルケアには多くの意味があります。ただ、「だれがエンゼルケアを担当するか」によって、その目的は多少変わってきます。最後にこれを簡単に紹介します。
- ・病院でのエンゼルケア……主に「感染症予防」の観点から行われることが多いといえます。また、医療機器の取り外しなどの専門的な作業も、病院の担当領分です。
- ・葬儀社のエンゼルケア……故人を生前の姿に近づけるために行うことを目的としますが、傷跡の修復などについては限界が見られることが多いといえます。
- ・納棺師のエンゼルケア……生前の姿に近づけることはもちろん、「長患いで亡くなった人の姿を、元気だったときの姿に近づける」などのように、より美しく、より若々しく見せるためことを目的とします。専門的な知識と道具をもって処置に当たりますが、多くの場合納棺師のエンゼルケアはオプションとなります。
このように、一口に「エンゼルケア」といっても、その目的や技術には差があります。
まとめ
エンゼルケアとは、亡くなった人に対する処置全般をいいます。
「どこまでをエンゼルケアというか」は非常に難しいのですが、医療器具の取り外しや清拭、着替えや化粧などを含むことが多いといえます。なお、お湯に漬からせる「湯灌」と、防腐処理を主な目的とする「エンバーミング」とは、多くの場合区別されます。
亡くなった場合は、まず病院である程度の処置がなされ、その後希望に応じて葬儀社・納棺師によるエンゼルケアが行われます。
なおエンゼルケアには、「感染症の予防・ご遺体を清潔に保つ・ご家族のケアをする」という目的があります。
病院・葬儀社・納棺師によるエンゼルケアは、それぞれ目的が異なります。
なお、サン・ライフでは、湯灌も納棺師によるエンゼルケアもエンバーミングも、すべて執り行うことができます。
「このようにお見送りをしたい」「湯灌も受けたい」「エンバーミングもお願いしたい」「エンゼルケアだけをお願いしたい」などの希望があれば、なんなりとおっしゃってください。
厚生労働省認定 葬祭ディレクター技能審査 1級葬祭ディレクター
高橋 竜一
株式会社サン・ライフは安心のご葬儀・お葬式・家族葬をお手伝いいたします。