老衰を迎える家族との最期の時間は貴重なものです。後悔のない時間を過ごし、また家族が老衰を迎えた際の不安や戸惑いを軽減するためにも、あらかじめ知識を付けておくことが大切です。
本記事では、老衰の5つの前兆や家族の3つの心構えを紹介するとともに、家族が老衰を迎えた際の対応方法も解説します。いざその時が来ても動揺せずに冷静に対応できるよう、ぜひ最後までご覧ください。
老衰死とは?
まずは老衰死の定義を詳しく解説します。「老衰という言葉は聞いたことがあるけれど、きちんとした定義はよく知らない」という方は、順番に読み進めてみてください。
老衰死の定義は自然死
老衰死の定義は病気、事故、事件などが原因ではない自然死のことを指します。加齢に伴って生体機能が衰えた先に、老衰死が訪れるのです。
厚生労働省の死亡診断書記入マニュアルによると、老衰は「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います」との記載があります。すなわち特に死に至る原因がなく、眠るように亡くなった場合は老衰と判断されるという理解で良いでしょう。
ただし老衰によって誤嚥性肺炎など他の病気を併発して死亡した場合は、直接死因が「誤嚥性肺炎」、その原因に「老衰」と記載されます。
なお、老衰で亡くなる方は2000年代から右肩上がりで上昇しており、2019年には14万人に達する勢いのため、今後も老衰死は増加していくと考えられるでしょう。
※参考:厚生労働省.「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」.“一般的注意”.https://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_h30.pdf ,(2024-08-08).
老衰死の割合は?
長らく日本の死因の上位にあったものは、がん・脳血管疾患・心疾患でした。現に2020年、2021年の死因第1位はがん、第2位は心疾患となっています。しかし国立社会保障・人口問題研究所によると、2023年にはついに脳血管疾患を抜いて、老衰が第3位にまで上昇しました。
1995年では老衰が死因の第5位でしたが、それ以降徐々に増加し、2017年には第4位だった肺炎、2018年で第3位だった脳血管疾患を追い抜いています。
老衰死がここまで増えてきている原因はさまざま考えられますが、医療の進歩や食生活の改善など人々の健康意識が高まったおかげで、脳卒中などの脳血管疾患が減少し、その結果老衰死が相対的に増加したとされています。
※参考:厚生労働省.「政策統括官」.“-人口統計資料集(2024)-”.https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2024.asp?fname=T05-22.htm ,(2024-08-08).
老衰死と認められるのは何歳?
老衰死と認められるのは〇歳から、といった具体的な定義はなく、死亡診断書を作成する医師の考え方によって決められます。先ほど紹介した厚生労働省の死亡診断書マニュアルにおいても、年齢は特に明記されていません。
一般的には平均寿命(男性:81.05歳、女性:87.09歳)を超えた年齢、具体的には85歳以上であれば、老衰死と判断されることが多いようです。
ただし医師によって老衰とするかしないかの判断基準が異なるため、直接的な死因がなくとも年齢によって老衰死と認められない場合もあるでしょう。
※参考:厚生労働省.「令和4年簡易生命表の概況」.“統計表”.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html ,(2024-08-08).
老衰死が良いとされる理由
「最期は老衰で逝きたい」「老衰で穏やかに死にたい」という言葉を家族から聞いたことがある方もいるかもしれませんが、なぜ老衰死が良いとされるのでしょうか。
それは老衰の定義でもお伝えしたとおり、身体機能の衰弱による自然な死であり、他の死因と比べると「自然」であるからといわれています。
老化するとさまざまな機能が衰えていくのは、自然なことです。それを元気な頃に戻そうとして長期間の通院や入院、手術などを行った場合、本人に大きな苦痛が発生し、見ている家族のメンタル的な負担も増えてしまうケースがあります。さらに一時的な回復後の急激な悪化も起こり得るでしょう。
老衰であれば徐々に身体が弱っていくため、家族も気持ちの整理が付きやすく、最期の時を落ち着いて迎えられる可能性があります。
老衰死の前兆(サイン)は主に5つ
老衰死の前兆は主に5つあります。このサインを見逃さないようにし、最期の時を穏やかに迎えられるように事前の心構えをしましょう。
加齢性筋肉減少症になる
加齢性筋肉減少症とは、加齢に伴い身体全体の筋肉量と筋力が低下する病気のことで、別名「サルコペニア」とも呼ばれています。高齢になると「体力が落ちた」「食が細くなった」と訴える方が増えますが、これも単なる老化ではなく、サルコペニアが原因であるということが分かってきました。
サルコペニアは筋肉量の減少から始まり、その結果として何もないところでつまずく、転ぶなどの日常生活への影響が発生します。このような身体機能の低下は「虚弱」と呼ばれ、老衰への入り口となります。
※参考:日本医事新報社.「Web医事新報」.“老衰【加齢性筋肉減少症が老衰の始まり】”.https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=5076 ,(2024-08-08).
身体機能が低下する
身体機能の低下の主な原因であるとされているのが、「ヘイフリックの限界」と呼ばれる考え方です。
人の細胞分裂の回数には上限があり、その上限まで達すると新しい細胞分裂は行われずにどんどん細胞が老化していくという考え方で、その結果筋肉、骨、臓器などはゆっくりと劣化していき、身体機能が低下していくといわれています。
その結果、身体機能が低下し、日常生活での動きが制限されます。さらに活動量の減少が機能低下を加速させる悪循環を生み出し、最終的に老衰死に至るのです。
食事の量が減る
身体機能の低下に伴い必要エネルギー量も減少するため、食事量が自然と減少します。同時に、胃腸の消化吸収機能も衰えるため、一度に大量の食事を取ることが困難になります。
筋力低下によって飲み込む力も衰えていくため、食事がつらいと感じる方も増えるようです。さらに嗅覚や味覚も衰えるので、食事の香りや味も感じにくくなり食事の時間が楽しめなくなることがあります。
その結果、老衰が進行すると固形物の摂取が困難になり、流動食のみを受け付けるようになります。老衰が進むと経口摂取が不可能となり、点滴による栄養補給が必要になるかもしれません。
体重が急に減少する
急に体重が減少し始めたら、老衰になる可能性が高くなります。老衰が近づくと、サルコペニアによって身体の筋肉量が減少し体重が減るだけでなく、食べているのに痩せていくといったことも起こります。
この場合は胃腸での栄養吸収がうまく行えていないことなので、早急に病院での診察を受け、適切な栄養管理と医療的ケアが必要です。いち早く気付くためには、急に体重が減っていないかなど、日頃から家族がしっかりチェックしておくと良いでしょう。
毎日決まった時間に体重計に乗り、日頃から管理しておけば病院での診察時にも役立つので、習慣化するのがおすすめです。
寝てばかりになる
老衰が進行すると、寝ている時間が顕著に増加します。身体機能の低下により、動くことが困難になり、わずかな活動でも疲労感が強くなるのが特徴です。
その結果、食事や運動の時間が減少し、ほとんどの時間を睡眠や休息に費やすようになります。この状態は老衰のサインですが、同時に脱水症状や認知症など他の原因の可能性も考慮する必要があります。
寝ている時間の増加に気付いたら、老衰に伴う合併症のリスクを確認すると共に、他の潜在的な健康問題がないかチェックすることが重要です。適切な医療ケアと生活支援により、快適な生活の維持を目指しましょう。
老衰から死亡までの期間
老衰から死亡までの期間は個人差が大きく一概にいえませんが、人間の機能からいうと、一切の延命治療をせずに水や食事も取らない状態であれば1週間程度で老衰死するといわれています。
ただし国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2020年の老衰から死亡までの期間は、1カ月が最多でその後2カ月、3カ月と続きます。これは医師による老衰死の判断の違いが大きく表れている結果です。
老衰であれば突然亡くなることはないので、前述した老衰の前兆が感じられたら、最期の時を迎える心づもりをしてください。生きている間にしかできないこと、伝えたいこと、やっておきたいことなど、さまざまな準備を始めることをおすすめします。
※参考:国立社会保障・人口問題研究所.「老衰死の統計分析」.“長寿革命に係る人口学的観点からの総合的研究”.
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/22780101.pdf ,(2024-08-08).
老衰死に対する家族の心構え
大切な家族がいざ老衰死を迎えることになったとき、家族はどのような心構えをしておくと良いのでしょうか。準備せずにその時を迎えてしまうと、気が動転してしまい、やらなければならないことを忘れてしまうかもしれません。亡くなってから後悔しても遅いので、そうならないためにも今から何をしておくべきなのか、確認しておきましょう。
延命治療するか意思確認を行う
本人の意識があるうちに、延命治療をするかどうか意思確認をしましょう。老衰の兆候が見られると、1日中寝ていたり呼びかけても反応が薄くなってきたりします。そうなってからでは本人の意思を確認しづらいので、老衰のサインが見え始めたらなるべく早く延命治療について話し合うことをおすすめします。
「できる限りの延命治療を行う」「苦痛を取り除く緩和ケアに切り替える」「点滴などのあらゆる処置を行わない」など、治療方針を決めましょう。その際は家族全員が納得するまで話し合い、わだかまりを残さないことが大切です。
専門的で分からない部分は主治医や看護師、ソーシャルワーカーなど専門家の意見を参考にするのも一つの手段でしょう。最終的には本人の意思とQOLを最優先し、家族全員で選択することが重要です。
これまでの気持ちを伝える
老衰により反応が薄くなっても、本人の人格や尊厳は今までと全く変わりません。意識がなくても聴覚だけは最後まで残るといわれています。
そのため耳元で思い出話をしたり、恥ずかしくて伝えられなかった気持ちを伝えたりすることで、本人や家族も安らかな気持ちで最期の時を迎えられるでしょう。「あの時言えば良かった」と後悔することもなく、きちんと送ってあげられたと胸を張って思えることが大切です。
また写真を見せたり好きな音楽を流したりするのも良いでしょう。本人の反応を確認しながら、伝わるように工夫することが大切です。
葬儀に呼びたい人を確認する
参列者の意向は、意識がはっきりしているうちに確認することが重要です。招待したい人や、反対に呼びたくない人について本人の意思を尊重し、事前に話し合っておくことで後の混乱や後悔を避けられます。
参列者が決まっていれば、招待状の発送や会場の手配などの準備も円滑に進められ、家族の負担も減らせるでしょう。
なお葬儀の希望を聞くのは本人が元気なうちに行うのが理想的です。エンディングノートを活用すると自然に話題を切り出しやすくなります。本人の意思を尊重しつつ、家族の負担も軽減できます。死期が迫ってから聞くよりも、穏やかな環境で話し合うことで、より詳細な希望を確認できるでしょう。
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老衰死に関するよくある質問
ここでは老衰死に関するよくある質問をまとめました。今後のためにも、ぜひ参考にしてください。
老衰から復活できますか?
完全に復活することはありませんが、「話しかけても反応がない」「一日中寝ている」といった老衰状態から、急に意識が戻ったり今までのように話したりといった活発な様子が見られる状態があります。
この現象を中治り現象といい、死期が迫っている人が一時的に元気になる状態のことを指します。これは世界的にもよく見られるもので、欧米では「last rally(ラストラリー)」と呼ばれる現象です。脳が寿命を延ばそうとドーパミンやセロトニンなどの神経物質を出し、結果として一時的に症状が改善し元気になることが理由とされています。
中治りは完全な回復ではなく、むしろ死期が近いことを示す兆候の一つです。
ターミナルケアとは何ですか?
ターミナルケアは「終末期医療」とも呼ばれ、末期の状態にある患者に対して行われる医療や介護のことです。緩和ケアの一環として行われます。一般的な医療行為と違って治療を目的とするのではなく、苦痛や不安を和らげ、本人の尊厳を保ちながら最期を迎えられることを目的としています。
身体的な症状の管理だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルなどのケアも含め、本人の意思を尊重しながら多角的な面からのサポートを行うのが特徴です。
老衰になったらどうすればいいですか?
家族に老衰の兆候が見られたら、慌てずに主治医やケアマネジャーと相談して、これから必要になる治療や介護サービスの利用を検討しましょう。
老衰状態の方を介護することは相当な負担がかかるので、一人で抱え込まずに家族全員で役割分担をして支え合うことが大切です。その際も本人の意思を確認しながら、できるだけ希望に添ったケアができるよう心掛けると良いでしょう。
ただし本人の希望を全てかなえたいと必死になるあまり、家族が倒れてしまっては元も子もありません。自身の体調管理はしっかりとしつつ、最善を尽くしましょう。
まとめ
老衰死は苦痛もなく安らかな死を迎えられるので、本人も家族も落ち着いて最期の時を過ごせます。老衰死の前兆である5つのサインを見逃さずに、老衰状態から亡くなるまでの期間を後悔なく過ごせるでしょう。
また家族が老衰になったらしておきたいことの一つとして、葬儀社を事前に決めておくことも大切です。亡くなってから慌てて決めるよりは、前もって準備しておくことで本人の意向に添った葬儀が行えます。
株式会社サン・ライフでは、葬儀に関することであればお気軽にご相談いただけます。ご家族の意向をくみ取り、細かな部分までしっかりと打ち合わせを行うのでご安心ください。
ご不安な点があればその都度丁寧に説明し、穏やかな気持ちで葬儀を迎えていただけるようサポートいたします。電話での無料相談や資料請求など、ぜひお気軽にご連絡ください。