家族を亡くした方の中には「献体後の遺体はどう扱われるのだろう」と疑問に思う方も多いでしょう。本記事では献体登録までの流れや献体後のご遺体の扱い、お葬式をする際の注意点など詳しく解説します。また献体のメリット・デメリットも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
献体とは?
「そもそも献体とは何を意味するのか」ということに対して、明確に理解している方は多くありません。ここでは献体とは何か、その定義や意義を詳しく説明します。
献体とは無条件でご遺体を医療機関に提供すること
献体とは死後、医学・歯学の大学へ無条件でご遺体を提供することを指します。医学生・歯学生の解剖実習に利用され、将来の医療の発展に寄与できる意義のある行為です。
献体を希望する場合は、生前に関連団体や献体をしてもらいたい大学へ事前登録する必要があります。詳しい登録方法は、関係各所のホームページに記載されているので、確認してください。
献体は医学教育と臨床研究の発展に大きな役割を果たし、将来の医療のさらなる向上へと貢献する重要な選択肢といえるでしょう。
献体が増加した背景
昔は献体が集まらず大学側は苦労したそうですが、最近では献体は増加傾向にあります。その理由は2つ考えられ、1つ目は献体に対する意識の高まり、2つ目は大学側が火葬費用を負担してくれることが挙げられます。
また遺骨の引き取り手がいないご遺体であっても、献体後に供養やお墓を用意してくれる大学も存在するため、身寄りのいない方や家族と疎遠になった方など、献体を一つの選択肢として考える方が増加しました。また家族に負担をかけたくないと考える方も、献体を選択することが増えているようです。
献体が増えていることは、医学・歯学の発展にとっては大変喜ばしいことですが、その反面、それだけ高齢化社会で身寄りのない高齢者が増えているという事実もうかがえる結果といえるでしょう。
献体登録・遺体引き渡しまでの流れ
献体登録から遺体引き渡しまでの流れを簡単にご紹介します。自身が献体を希望する場合は、詳細な手続き方法などを家族や病院スタッフに伝えておくのがベストです。
主な手続き
献体登録に必要な手続きは、以下の順番で行います。
- 申込書の取り寄せ
- 申込書の記入
- 会員証の発行
まず、関連団体や大学へ献体の申し込みを依頼する申込書を取り寄せます。この申込書は問い合わせれば入手できるので、電話や問い合わせフォームを通じて連絡しましょう。返送方法などの手続きは各所で異なるため、その後の手続きの詳細も併せて確認することをおすすめします。
次に申込書の必要事項に記入します。このとき自分の捺印と両親の捺印も必要です。両親の同意が取れていることが献体の条件となるので、注意してください。
申込書が受理されると、会員証が発行されます。この会員証は帯同することで献体希望の意思表示ができるので、旅行先などにも持っていきましょう。登録先の団体名や死亡時の連絡方法などが記入されているため、なくさないようにしてください。
ご遺体の引き渡し
ご遺体の引き渡しは、登録団体の担当者が行うのが基本です。献体登録者が亡くなった後は、会員証に書かれている登録団体へ速やかに連絡します。その後、登録団体と引き渡しの詳細な日時や葬儀の予定を相談します。亡くなった場所によっては「登録団体までご遺体を運べない」「献体ができないのでは」と思うことがあるかもしれませんが、自己判断せずにまずは連絡を入れてみてください。
献体の引き渡し時には、登録団体の担当者や葬儀社スタッフがかけつけ、ご遺体の搬送を行います。その際、死亡診断書・火葬許可証・印鑑が必要なので、準備しておきましょう。
死亡後すぐに引き渡しができない状況であれば、ご遺体の腐敗を防ぐために冷蔵保存やドライアイスを使用しての保管が必要なので、登録団体に相談してください。団体によっては防腐処理を行ってくれることもあり、事前に相談しておくのがおすすめです。
無事に献体が終了した後は、火葬され遺族の元へと返されます。火葬の日時は遺族へ連絡が入るので、そのときに分骨の希望や遺骨の返却の日程を調整しましょう。また火葬への立ち会いができるかどうかも併せて確認してください。
遺骨の受け取りは遺族が大学側へ取りに行くのが通例ですが、難しい場合は自宅へ発送してくれることもあります。
献体が決まった際の葬儀はどうなる?
献体をすることが決まった場合の葬儀は「献体前に葬儀を済ませる場合」「献体後に葬儀を執り行う場合」の2パターンがあります。それぞれ詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
献体前に葬儀をする場合
献体前に葬儀を執り行う際は、通常通りお通夜や告別式を行いますが、出棺後の行先は火葬場ではなく献体を行う遺体保管場所です。火葬を執り行わないので、お骨上げの儀式がなく、葬儀終了後は解散か会食が行われます。
数カ月もしくは数年後になるかもしれませんが、ご遺体が戻ってきたタイミングで僧侶にお経を依頼し、納骨を行って法要を済ませます。納骨は地域のやり方や霊園の規則に従って行いましょう。
献体前の葬儀は、火葬という最期のお別れの儀式がないため、参列者の心の整理がつきにくいことが考えられます。葬儀を行う際には献体の意義を尊重しつつ、参列者の心情にも配慮した対応が必要となるでしょう。
献体後に葬儀をする場合
献体後に葬儀を執り行う場合は、ご遺体がない状態で通夜や告別式を行います。ご遺体がないので棺桶が必要なく、代わりに祭壇には遺影や供花などを飾って寂しく見えないようにする工夫が必要です。参列者には焼香や献花をしてもらい、故人をしのぶ機会として葬儀を執り行います。
やはり最期のお別れは遺骨がある状態で行いたいという方には、遺骨が返却された後に再度葬儀を行うケースもあり、どのような葬儀スタイルを取るのかは葬儀社と相談して決めると良いでしょう。
献体登録をするメリット
献体登録をするメリットは2つあります。1つは「医学の発展に貢献できる」こと、もう1つは「火葬の費用を負担してもらえる」ことです。ここからはそれぞれのメリットを詳しく解説します。
医学の発展に貢献できる
医学・歯学では教科書に載っている内容だけではなく、実際に人間の体を解剖して勉強する経験がなければ臨床としては役に立ちません。その際に大切なのが、解剖できる献体があるかどうかです。献体は学生たちに人体の構造を直接学ぶ機会を与えることが最大の目的であり、結果として医学の発展に貢献できます。
近年では医師・歯科医師だけでなく、深く人体を理解する必要のある医療スタッフや介護・福祉などの分野でも解剖実習が取り入れられています。
医療に携わるより多くの従事者が解剖実習によって人体への理解を深めることで、医療の質が向上するでしょう。献体はその医学教育の基礎を支える、大切な行為といえます。
火葬の費用を負担してくれる
献体は何かの見返りを求める行為ではなく、無条件・無報酬が原則です。登録団体や大学側は、ご遺体の搬送費と火葬費の負担はしてくれますが、それ以外の葬儀に関する費用は遺族が負担する点に注意してください。
登録団体や大学側が火葬の費用を負担してくれることから「葬儀の費用も負担してくれる」と勘違いする方もいるので誤解のないようにしましょう。
もし葬儀費用が心配で献体を検討している方がいましたら、株式会社サン・ライフに一度ご相談ください。当社では予算に合わせた家族葬プランをご提案しますので、気になる方は以下のサイトもご覧ください。
献体登録をする際のデメリット
献体を登録することはメリットだけでなく、当然デメリットもあります。ここからは注意したいポイントを解説するので、献体登録を検討している方はぜひ参考にしてください。
両親の同意が必要
献体を登録するためには本人の意思だけでなく、家族や親族の同意がなければ登録できません。献体をするかどうかは家族にも決定権があるため、いくら生前に本人の強い意志があったとしても、家族が反対しているのであれば献体はできないとされています。
遺体解剖を通じて、大切な家族の体にメスが入れられることに抵抗を感じる方がいても無理はありません。どうしても献体をしたいと考えているのであれば、早めに家族の理解を得ておくことをおすすめします。
ご遺体がいつ戻ってくるか分からない
献体に出されたご遺体は防腐処理を施され、解剖へと回されます。防腐処理や解剖の準備などで約10カ月、解剖実習期間は通常2カ月ですが、その年の実習に供されなかった場合は翌年の実習まで保管される仕組みです。
そのためお墓はあるけれどお骨がない状態が数年続くことも考えられ、その点について家族や親族の理解を得ておく必要があります。いつ返却されるかも事前連絡はないため、急に納骨の法要が必要になることも考えられるでしょう。残された家族の負担もよく考慮して、献体登録の意志を決めてください。
献体できない条件がある
献体登録をしていても、下記のようなケースは献体できないことがあります。
- 家族の許可が取れていない
- 遺骨を引き取る家族がいない(ただし大学に納骨堂がある場合は献体可能)
- 交通事故、墜落事故などで内臓破裂や血管損傷などを起こし、ご遺体の損傷が激しい
- 事件性があり、司法解剖を受ける必要がある
- 特殊な病気により死亡し、病理解剖を受ける
- 臓器提供をした
- B型肝炎、C型肝炎、結核などの感染症により死亡した
- 献体登録した団体や大学から遠い場所で死亡した(ただし献体できるかどうかは大学側が判断する)
- 葬儀用のエンバーミングを施した
いずれにせよ大学によって条件が異なるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
遺骨が本人のものであると実感できない
献体後に遺骨となって戻ってきたとしても、本人のものであると実感できないことがあります。通常であれば火葬場でお別れした後、遺骨となった姿を見ることになりますが、献体する場合はそれがありません。
葬儀でお別れをしたとしても参列者や家族は納得感を得にくく、何年後かに遺骨を受け取っても本当に本人なのかと疑問に思う方もいるようです。大切な家族の身体が解剖されるという事実がどうしても受け入れられず、拒否反応を示してしまうこともあるでしょう。
自分が亡くなった後の手続きなどを全て行うのは家族です。家族の気持ちをよく考えてから決断を下しましょう。
約48時間以内に提供する必要がある
献体はご遺体の腐敗を防ぐために48時間以内の引き渡しが望ましいとされています。そのため献体前に葬儀を執り行う場合は、かなり慌ただしく進めることになります。状況に応じて一般葬ではなく、簡略化された一日葬にするなどの臨機応変な対応が必要です。
大学によっては、死亡から葬儀までに時間がかかる場合に防腐処理を行ってくれることもあるようですが、急いで準備しなければならないことに変わりはありません。
ただし献体後に葬儀をする場合は、遺骨が戻るまでの数年間に時間をかけて葬儀の準備ができます。もし時間のなさが気になる場合は、そちらの選択肢も検討してみてください。
献体に関するよくある質問
献体に関するよくある質問を3つピックアップしました。献体登録を考えた方であれば一度は浮かぶ疑問ばかりなので、ぜひ回答をチェックしてください。
献体したご遺体は、どのように保存されているのですか?
献体として提供された遺体は、防腐処理をして一体ずつ丁寧に保管されます。防腐処理を行うことで死亡後の腐敗を防ぐことができ、数年単位の長期保管が可能です。教科書では得られない知識の習得につながります。
検体と献体の違いは?
献体と同じ読み方の「検体」ですが、献体とは全く異なる意味を持ちます。検体とは血液・尿・唾液・鼻汁・皮膚など、臨床検査で必要となるあらゆる生体試料を指します。例えば手術で採取された組織片も該当し、検査の対象です。
実際には献体は解剖実習に使用される遺体を指しますが、今後の医療発展のために遺体を提供する行動そのものを指すことがほとんどです。同じ読み方でも全く意味が異なるため、混同しないように注意してください。
参考:厚生労働省.「検体検査について」.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02251.html ,(参照:2024-09-02).
解剖実習で献体したらその後はどうなりますか?
解剖実習で使われる遺体は年間で決められており、それを超えて解剖することはありません。献体してもすぐには解剖されないご遺体も出てくるでしょう。そういったご遺体は返却されることはなく翌年度の授業で使われるため、解剖実習の期間になるまで丁寧に保管処理が続けられます。
解剖実習後、ご遺体は火葬されて遺骨となって家族の元へと返されるシステムです。その際前もって学校側から連絡が入ります。
まとめ
献体は医学生・歯学生・医療スタッフが実際に人体を観察できる数少ない貴重な機会を提供します。残された家族の理解は必須ですが、今後の医療への発展に寄与できる非常に意義のある行為といえるでしょう。
献体するためには事前登録や家族の同意など、準備が必要不可欠です。献体登録に少しでも興味がある方は、早めに準備を進めておくことをおすすめします。また葬儀に関しても、どのように執り行ってほしいのか家族に伝えておくと良いでしょう。そのときになって慌ただしく決めてしまうと、家族に後悔の気持ちが残るかもしれません。
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