
故人との最後のお別れの時間を大切にする儀式として「死化粧(しにげしょう)」があります。故人のお顔をきれいに整えることだと、漠然とは知っていても「具体的に何をするのか」「費用はいくらかかるのか」「家族も参加できるのか」など、さまざまな疑問があるでしょう。
本記事では、死化粧が持つ深い意味や目的から、具体的な手順と流れ、費用の相場まで、あらゆる情報を解説します。
死化粧とは
死化粧とは、ご遺体を清め、髪や顔を整え、薄く化粧を施すことで、故人の外見を生前の穏やかな状態に近づけるための儀式です。闘病生活でやつれてしまったお顔や、事故などで受けた損傷を、できる限り自然な形でカバーし、安らかな表情に見せることで、遺族の深い悲しみを和らげるという大切な役割を担っています。
一般的に、ご遺体を棺に納める「納棺の儀」の前に行われることが多く、故人が安らかに旅立てるよう、身支度を整えるという意味合いが込められています。単に外見を美しくするだけではなく、故人の尊厳を守り、遺された家族が心穏やかに故人を見送るための重要なプロセスといえるでしょう。
エンゼルケアとの違い
エンゼルケアは、故人が亡くなられた後に行われる医療的な処置全般を指します。具体的には、点滴やカテーテルといった医療器具の取り外し、口腔・鼻腔ケア、排泄物の処理、全身の清拭(せいしき)などです。これらの処置は、ご遺体の腐敗を防ぎ、感染症を予防するなど、公衆衛生の観点から行われます。
死化粧が主に外見を整える美容的な側面を持つのに対し、エンゼルケアは医療行為の一環です。そのため、原則として医師や看護師といった医療従事者によって行われます。病院で亡くなった場合は、退院するまでの一連の流れの中でエンゼルケアが施されるのが一般的です。
エンバーミングとの違い
エンバーミングは、ご遺体に特殊な薬液を注入し、腐敗防止や殺菌処置を施すことで、長期間にわたり衛生的に保存することを目的とした科学的な処置です。ご遺体の血管を通じて防腐剤や修復剤を注入し、損傷の激しい部分の修復も行います。これにより、ご遺体をより生前に近い状態で、一定期間(一般的には10日〜2週間程度)保つことが可能です。
この処置は専門的な技術と知識を要するため「エンバーマー」と呼ばれる有資格者のみが行えます。海外への搬送が必要な場合や、火葬まで日数が空いてしまう場合、また故人とゆっくり対面する時間を確保したい場合などに選択される特別な技法です。
死化粧を行う3つの大切な目的
死化粧は、単にご遺体の見た目を整えるだけではありません。故人、そして遺されるご家族にとっても、非常に深く、大切な意味を持ちます。ここでは、死化粧が行われる主な3つの目的について、それぞれ詳しく解説します。
故人の尊厳を守り、安らかな姿に見せるため
死化粧の根源的な目的は、故人の尊厳を守ることです。長い闘病生活で容姿が変わってしまったり、不慮の事故で傷を負ってしまったりした場合でも、その苦しみの跡を感じさせないよう、お顔や身だしなみを丁寧に整えるのです。死化粧は、人生の最期を締めくくるための大切な身支度であり、故人が尊厳を保ったまま、安らかな姿で旅立てるようにという願いが込められています。
家族の気持ちを癒し、故人の死を受け入れるため
死化粧は、遺されたご家族の心を癒す「グリーフケア」としての役割も担っています。大切な家族を亡くした直後は、深い悲しみや喪失感に苛まれるものです。故人のお顔が生前の苦しみを色濃く残したままだと、ご家族の悲しみはさらに深くなってしまうかもしれません。
死化粧によって故人が安らかな表情になることで、ご家族は「安らかに眠っている」と感じることができ、心の負担が軽減されます。穏やかなお顔の故人と対面し、後悔なくお別れをすることは、ご家族が故人の死をゆっくりと受け入れ、気持ちを整理していくための重要な過程となるのです。
生前の元気だった姿に近づけるため
ご遺体の表情や髪、身だしなみを整え、自然な化粧を施すことで、故人をできる限り生前の元気だった頃のお姿に近づけるのも、死化粧の重要な目的です。ご家族の記憶の中にある、故人の面影を取り戻すことを目指します。
闘病によるやつれや肌の色の変化などをカバーすることで、痛々しさが和らぎ、ご家族は安らかな気持ちでお別れができます。記憶に残る故人の最後の姿が、つらいものではなく、穏やかで美しいものであり続けることは、遺されたご家族にとって大きな慰めとなるでしょう。
死化粧の一般的な手順と流れ
死化粧は、故人が安らかに旅立てるよう、敬意を込めて行われる一連の儀式です。病院や葬儀社、依頼する専門業者によって手順の順序や内容は多少異なりますが、ここでは一般的な手順と流れをステップごとに解説します。
医療器具の取り外し
ご逝去後、まず行われるのが医療的な処置です。故人のお体につながっている点滴の針やチューブ、ドレーン(体液を排出する管)などを取り外します。ペースメーカーを装着している場合は、火葬に影響が出ないよう、この段階で摘出されるのが一般的です。
これらの処置は医療行為に当たるため、原則として医師や看護師によって行われます。必要に応じて、治療の際にできた傷口の縫合や手当なども施され、ご遺体を清浄な状態にするための準備が進められます。
排泄物・内容物の排出
ご遺体の内部に便や尿などの排泄物、あるいは腹水といった内容物が残っていると、時間の経過とともに腐敗が進み、感染症の原因となる可能性があります。ご遺体を衛生的に保ち、尊厳ある状態を維持するためには、排泄物・内容物の排出は欠かせません。
腹部を穏やかに圧迫したり、専用の器具を使って口や鼻から吸引したりして、体内の残存物を取り除きます。
口腔ケア
口腔内は雑菌が繁殖しやすく、腐敗や口臭の発生につながるため、丁寧なケアが行われます。ガーゼなどを使って口の中の汚れをきれいに拭き取り、清潔な状態に保ちます。
あごの関節は比較的早い段階で死後硬直が始まるため、口が開かなくならないうちに、速やかに行うのが一般的です。処置の最後には、消毒用のアルコールや脱臭剤を染み込ませた綿を口の奥や鼻に詰め、腐臭を防ぐ場合もあります。一般的に、病院で看護師などによって行われるここまでの処置を「エンゼルケア」と呼びます。
全身の清拭
エンゼルケアに続き、ご遺体全体をきれいにする「清拭(せいしき)」が行われます。お湯やアルコールを含ませたガーゼや布で、頭から足の先まで全身を丁寧に拭き清めます。ご遺体の皮膚は乾燥しやすいため、保湿用のローションやクリームを塗りながら、肌を傷つけないよう優しく行うのが一般的です。
また体液が体外に漏れ出すのを防ぐ目的で、鼻、口、耳、肛門などに綿を詰める「綿詰め」が行われることもあります。ただし、近年では専用の漏出防止ゼリーを使用したり、ご遺体の状態によっては綿詰めそのものを行わなかったりするケースも増えています。
着替え
全身を清めた後、新しい衣服に着替えます。一般的には、仏式の死装束である「経帷子(きょうかたびら)」や、病院が用意した浴衣などが用いられます。しかし、決まりがあるわけではなく、故人が生前に愛用していたパジャマや洋服、ご家族が着せてあげたいと願う晴れ着などを着せることも可能です。
着物が死装束の場合は、通常とは逆の「左前(左の襟が上になる)」に合わせるのが慣習です。ご家族の希望を伝え、故人らしい姿で送り出せるようにしましょう。
整髪・化粧
最後に、故人のお顔を生前の穏やかな姿に近づけるため、髪と顔を整えたら完了です。髪はドライシャンプーなどを用いてきれいにし、くしやブラシでとかして寝ぐせなどを直します。男性の場合は、必要に応じてひげを剃ります。
化粧は、ご遺体の肌の色が変化していることを考慮し、血色がよく見えるようにファンデーションやチーク、口紅などを施すのが一般的です。やつれた頬に自然なふくらみを持たせるため、「含み綿(ふくみわた)」と呼ばれる綿を口の中に含ませることもあります。化粧が完了したら、胸の上で手を合掌の形に組み、上から布団をかけて一連の儀式は終了となります。
死化粧にかかる費用の目安
葬儀社や専門業者に死化粧を依頼する場合の費用は、サービス内容によって大きく異なりますが、おおよその目安は3,000〜15,000円程度です。ただし、これはあくまで一般的な相場であり、地域や依頼先によって変動します。
費用の内訳は、ご遺体の清拭や口腔ケア、整髪、メイクといった基本的な処置に加え、死装束や浴衣などの衣装代が含まれるかどうかで変わってきます。葬儀プランの中に基本的な死化粧が含まれている場合もあれば、オプションとして追加料金が必要な場合もあるので、希望する内容を伝えた上で、依頼先の葬儀社へ事前に見積もりを確認するのがおすすめです。
家族が参加・協力することも可能
死化粧は、専門業者に全てを任せる必要はありません。ご家族が中心となって、故人のお顔を整え、化粧を施すことも可能です。この場合、業者への依頼費用は基本的にかかりません。ただし、化粧品やコットン、清拭用のタオルといった必要な物品は、ご自身で準備する必要があります。
故人が生前に愛用していた化粧品を使ってメイクをしてあげることで、よりその人らしい、自然な表情に仕上げられるでしょう。全ての工程を家族だけで行うのが不安な場合は、葬儀社のスタッフにサポートを依頼しながら、口紅を引いてあげるなど、一部の工程に参加することもできます。
まとめ
死化粧は、故人の尊厳を守り、安らかな旅立ちのための身支度を整える大切な儀式です。それと同時に、遺されたご家族が故人との最後の時間を心穏やかに過ごし、深い悲しみを癒やす「グリーフケア」としての大きな役割も持っています。
費用やサービス内容は葬儀社によってさまざまです。悔いのないお別れのために、どのような死化粧を望むのかをご家族で話し合い、事前にしっかりと相談することが望ましいでしょう。
サン・ライフでは、故人とご家族一人ひとりの思いに寄り添うことを大切にしています。経験豊富な専門スタッフが、故人らしい安らかなお顔でのお別れを心を込めてサポートいたしますので、ぜひ一度ご相談ください。