高齢化が進むにつれて、葬儀に呼ぶ知人や会社関係者も少なくなり家族葬が主流となってきました。
参列者が少ない家族葬において、従来の喪主挨拶はどのように、どんなタイミングで行われるのでしょうか?ここでは家族葬での喪主挨拶マナーとポイントを解説いたします。
家族葬とは
そもそも家族葬とはどのような葬儀なのでしょうか。
家族葬とは、故人との血縁関係のある身内や親せき、特に親しくしていた友人など、参列者を限定して行うご葬儀形式のことを言います。家族葬という名称ゆえに同居の家族だけで行わなくてはいけないと誤解される方も多いですが、呼ぶ範囲に明確な決まりはなく、人数にも制限はありません。基本的に故人と親しい間柄の人を中心に行われること以外、一般的な葬儀と大きな違いはありませんが、小規模なご葬儀になることが多いため、一般葬と比べて小規模な式場が選ばれます。
家族葬についてより詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめです。
「家族葬」というご葬儀の形式について、その定義や流れ、メリットやデメリットなどについてご案内します。
喪主挨拶とは
喪主挨拶とは、葬儀の中の節目に喪主から参列者に向けて行われる挨拶のことです。喪家を代表して、忙しい中駆けつけてくれた参列者に対しての感謝の気持ちやお礼が主な内容です。喪主は主に故人の配偶者や子供が行います。子供が行う場合は長男や長女が行うことが一般的ですが、必ずしもそうしなければいけないということはなく、家族内で相談して決めて問題ありません。
そもそも喪主とは
そもそも喪主とはどのような存在なのでしょうか。
喪主とはご遺族の代表者であり、ご葬儀を執り行う上での責任者になります。菩提寺や親せきとの日程調整など各所への連絡、ご葬儀の打ち合わせをして様々なことを決めたり、当日の参列者の対応も喪主が務めます。葬儀費用の支払いに関しても喪主が対応することが一般的です。これらのことはご葬儀の規模の大小に関わらず発生しますので、家族葬であっても必ず喪主が必要になります。
家族葬で喪主挨拶は必要?
一般参列者がほとんどいない家族葬ですが、基本的に喪主挨拶は必要と言えます。親しい間柄とはいえ、故人のために集まってくれた方々への感謝を述べることは喪主としての務めでもあり、また喪主挨拶は遺族の想いだけでなく、故人に対して生前していただいた励ましやご厚情に対して、故人に代わって感謝を伝える意味もあるからです。
ただし、普段から一緒に生活している同居の家族のみで行う家族葬において、形式的な喪主挨拶をするのも不自然ですので、参列者の顔触れによっては省略してもいいケースもあります。
また、喪主挨拶をする場合においても、一般葬とは異なり、普段から親しくお付き合いをしている方々に向けてのご挨拶ですので、それほどかしこまる必要はありません。
家族葬の喪主挨拶のタイミングと例文
家族葬は自分の身内や親せきが亡くならない限り参列する機会がないため、どのようなタイミングでどういう挨拶がされているか、見たことが無い方も多いでしょう。ここでは家族葬での喪主挨拶のタイミングと例文をご紹介します。
【例文】お通夜での喪主挨拶
お通夜では一般的に参列者の焼香がすべて終了し、僧侶が退席した後に式場内で行われます。通夜に最後まで参列して頂いたお礼と、通夜振る舞いの用意があればその旨と、翌日の葬儀告別式の案内も合わせてお伝えします。
お通夜の閉式まで参列できない方がいる場合には、葬儀場のスタッフに相談すれば、僧侶が入場する前に喪主挨拶の場を設けることもできます。
本日はご多用中にもかかわらず(故人)の通夜式にご参列頂きまして、まことにありがとうございます。
(故人)は、長年勤めあげた○○株式会社を退職してからは、孫の成長を生きがいに過ごしておりましたが、〇日前の○月○日○時に○○年の生涯を閉じました。
(故人)が晩年を豊かに過ごすことが出来ましたのも、ひとえに本日お集まりいただきました皆様型のご厚情の賜物と深く感謝をいたしております。
生前にいただいた皆様からのあたたかいお心遣いに厚く御礼申し上げます。
明日の葬儀告別式は〇時を予定しております。何卒よろしくお願いいたします。
また、別室にてささやかではございますが、ご会食の席を設けておりますので、お時間の許す限り故人の思い出話をしながらお召し上がりいただければと思います。
本日はありがとうございました。
【例文】通夜振る舞いでの喪主挨拶
通夜振る舞いとは、通夜に参列して頂いた方へのおもてなしと感謝の意味でご用意する会食の席のことです。家族葬では省略されることもありますが、通夜振る舞いをする場合には、喪主は始まりと終わりで挨拶をするのが一般的です。
本日はご多用の中、ご参列いただき誠にありがとうございました。
皆様にお越しいただき故人も陰ながら喜んでいることと存じます。
ささやかではございますが、通夜振る舞いのお席をご用意させていただきました。
お召し上がりになりながら、故人とのお詣で話などをお聞かせいただければと存じます。
お時間の許す限りどうぞごゆっくりお過ごしください。
本日は誠にありがとうございました。
本日は突然のことにも関わらず、故人のためにお集まりいただき誠にありがとうございました。
皆様のおかげでお通夜も滞りなくすませることが出来ました。
たくさんのお話をお聞かせいただき、改めて故人のことを知ることが出来ました。
思い出話は尽きませんが、夜も更けてまいりましたのでこのあたりでお開きにさせていただきたく存じます。
明日の葬儀告別式は〇時から執り行います、何卒よろしくお願いいたします。
本日は遅くまで誠にありがとうございました。
【例文】出棺時の喪主挨拶
葬儀告別式が終了したら、出棺の際に参列者に向けて挨拶をします。
最後までご参列頂いた感謝とお礼を伝え、これからも故人の生前と変わらないお付き合いをお願いする内容になります。
遺族を代表いたしまして、故人の(続柄)○○より、ご挨拶を申し上げます。
本日はご多用中にもかかわらず(故人)のためにお集りいただきまして誠にありがとうございます。
(故人)は〇年前に体調を崩して以降、長年病床に付しておりました。
その間、皆様から頂いた励ましやお見舞いを賜り本当に喜んでおりましたが、再び元気な姿で皆様にお目にかかることができず、○月○日家族が見守る中、静かに息を引き取りました。
改めて、(故人)の生前にいただきました皆様のご厚志にお礼申し上げますとともに、(故人)に代わりまして厚く御礼申し上げます。
今後とも(故人)の生前同様、遺された者へのご厚情をこの上ともお願い申し上げます。
本日は誠にありがとうございました。
【例文】精進落としでの喪主挨拶
精進落としとは故人を荼毘に伏した後に、僧侶と遺族とともに行う会食の席のことで、葬儀会場や料理屋、寺院で行います。近年では火葬の待ち時間の間に行うこともあります。
葬儀が無事に終了したことへの感謝、四十九日の案内などを含めたご挨拶を行うのが一般的です。
本日はご多用中にもかかわらず(故人)の葬儀告別式にお集まりいただき誠にありがとうございました。
おかげさまで葬儀も滞りなくすませることが出来ました。
つきましては、心ばかりではございますが精進落としの席をご用意させていただきました。
お時間の許す限り、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
本日は誠にありがとうございました。
本日はお集まりいただき誠にありがとうございました。
たくさんの思い出話を伺い、改めて故人のことを深く知ることが出来ました。
もっとお話を聞いていたいところですが、あまりお引止めするのもご迷惑かと存じますので、本日はこのあたりでお開きとさせていただきます。
なお、四十九日法要は○月○日を予定しております。
詳しい日程は追ってご連絡させていただきます。
今後とも私たちと変わらぬお付き合いを頂けますようお願い申し上げます。
本日は誠にありがとうございました。
その他の挨拶をするタイミング
喪主としての挨拶の場面は、参列者の前に立って行うものだけではありません。喪主としてご葬儀に参列される方への挨拶や、菩提寺への挨拶も喪主として必要になります。
ここでは来客に対する喪主としての対応や挨拶の仕方について解説します。
【例文】僧侶が見えた場合
僧侶が見えた場合には、葬儀会場にご足労頂いたお礼をお伝えします。また、菩提寺の都合によっては開式前のご挨拶の際にお布施を渡す場合もあります。
《挨拶例》
本日はご足労いただきましてありがとうございます。本日、明日とどうぞよろしくお願いいたします。
【例文】弔問客が見えた場合
弔問客が見えた場合も、その都度感謝の気持ちを伝えます。思い出話など話したいことがたくさんあるかもしれませんが、他の方の対応ができなくなってしまうため、短くお礼を述べる程度で構いません
《挨拶例》
本日はご多用のところお越しいただきましてありがとうございます。生前は○○が大変お世話になりました。
挨拶する際のポイント
親しい方が中心の家族葬とはいえ、人前で挨拶をすることに慣れていない方も多く戸惑うこともあるでしょう。ここでは喪主挨拶の中に含めた方がいい内容や喪主挨拶で意識するポイントなどを解説いたします。
挨拶に含めた方がいい内容
通夜や葬儀の中で喪主が行う挨拶には、押さえておくべきポイントがいくつかあります。一般葬だけでなく家族葬においても挨拶の中で触れておくべきポイントは共通しておりますので、是非参考にしてみてください。
押さえておくべきポイント
- ・故人と喪主の関係について
- ・参列いただいたことへの感謝とお礼
- ・生前に故人と親しくお付き合いいただいたことへの感謝とお礼
- ・今後も故人と変わらぬお付き合いをしていただくことのお願い
シンプルな喪主挨拶であれば、上記の内容だけをお伝えすれば問題ありません。
この間に生前の故人とのエピソードや、晩年の故人の様子などを交えても構いません。大切なのは、故人のために参列していただいたことへの感謝を伝えることです。
時間は長すぎず
喪主の挨拶はあまり長すぎることなく、かといって短すぎるとそっけない印象を持たれてしまうので、2分~5分の範囲に収めるといいでしょう。
生前の故人をよく知る方が集まる家族葬においては、形式的な挨拶は短めに切り上げることもあります。
精進落としや通夜振る舞いの前の喪主挨拶の際には、食事も控えているのでなるべく短めに済ませ、それぞれが思い出話をする時間をより多くとれるように配慮することも必要です。
声は大きく
喪主挨拶の時はなるべく大きな声で早口にならないように心がけましょう。
お年を召した方には聞き取りにくかったり、普段人前で話し慣れていないと自分が思っている以上に声が聞き取りにくいと感じられることがあります。
マイクを使って話すときも、なるべくマイクに近づいてゆっくりと聞き取りやすいように話しましょう。
原稿を読んでも大丈夫?
原稿を読みながら挨拶をすることはマナー違反ではありません。小規模な家族葬であったとしても、葬儀の段取りや各方面への連絡や当日の対応など、喪主にはほかにもしなければならないことがたくさんあります。肝心なのは上手にカンペを見ずに話すことではなく、相手に感謝の気持ちを伝えることです。無理して暗記しようとせず、印刷した紙などを用意しておきましょう。
原稿を読む場合にもなるべく参列者の方に目線を向けるようにすると表情が見えて気持ちが伝わりやすくなります。最近はスマートフォンの画面を見ながら挨拶する方も散見されますが、年齢層によってはよく思われない可能性もありますので、紙を用意するのが無難です。
使ってはいけない言葉例
葬儀の中ではあまり使わない方がいいNGワードがあります。家族葬の場合にはそこまで細かいところに気を使う必要はないかもしれませんが、中には不快に感じる方もいるかもしれませんので、確認しておきましょう。
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・「またまた」「いろいろ」「だんだん」などの重ね言葉
同じ音を繰り返す「重ね言葉」は、葬儀の場面では使わない方がいいとされています。これは人の死という繰り返されたくない不幸が重なることを連想されると言われているからです。日常的によく使う言葉だけに、うっかり使ってしまいがちですが気を付けましょう。
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・「引き続き」「重ねて」「続けて」といった続き言葉
同じことを繰り返す意味を持つ「続き言葉」も葬儀では使わない方がいいとされています。理由としては重ね言葉と同様、不幸が重なることを連想させるからだと言われています。
挨拶の中では「重ねて御礼申し上げます」と使ってしまいそうですが、「厚く御礼申し上げます」のように言い換えるとよいでしょう。 -
・「浮かばれない」「忙しい」「迷う」といった意味言葉
不幸や死を連想させる言葉は、葬儀だけでなく結婚式などでも避けるべき「忌み言葉」とされています。宗教の考え方にそぐわない言葉や、不幸や死など縁起が悪い言葉を連想させることが理由となっています。「お忙しい中お集まりいただき」という言葉は「ご多用中にもかかわらず」といった言葉に言い換えましょう。
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・縁起の悪い不吉な言葉
数字の「4」や「9」が「死」や「苦」を連想させるということで、葬儀の場面では避けられることがあるように、「終わる」「枯れる」「悲しむ」といったネガティブな言葉もあまり使わない方がよいとされています。
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・直接的に「死」を表現した言葉
道の不幸のさなかにある状況で、死を直接的な言葉で表現することは避けます。例えば「死ぬ」「急死」「自殺」のような言葉は、参列者にとってもショックの大きい言葉ですので使いません。挨拶の中で亡くなったことに触れる場合にも直接的な表現はせず「息を引き取った」「永眠した」といった言葉を使うようにしましょう。
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・宗教的に使うことが不適切な言葉
仏教の葬儀の中では、キリスト教の考え方である「天国」という言葉は使いません。逆にキリスト教の葬儀の中で仏教の考え方である「極楽浄土」「冥土」といった言葉も不適切です。
会食前の挨拶で「故人の供養のために」と言って、通夜振る舞いの席へ案内することがありますが、供養も仏教用語ですのでキリスト教や神道の葬儀では使わないようにしましょう。
まとめ
家族葬であっても参列者への感謝とお礼を伝える喪主挨拶は必要ですが、参列する親族の顔ぶれや人数によって、省略したり形式的な挨拶をしない方がかえって自然な場合もあります。
喪主挨拶の中で抑えるべきポイントや、場面別の例文をご紹介いたしましたが、本当に大切なのは、参列者の方への生前の感謝の気持ちを伝え、残された家族とも変わらぬお付き合いをお願いすることです。故人とのご縁を次の世代に引き継ぐ儀式がご葬儀です。ご葬儀の規模の大小に関わらず、故人がつないでくれたご縁を大切に、喪主挨拶にも気持ちを込めて行いましょう。