
お墓の継承者がいない、お墓が遠方で管理が難しいといった理由から「墓じまい」を検討する方が増えています。しかし、いざ墓じまいを考え始めると「費用はどのくらいかかるのだろう」「手続きは複雑で大変なのでは」「親族と意見が合わなかったらどうしよう」など、さまざまな疑問や不安が浮かんでくるのではないでしょうか。
本記事では、墓じまいの基本的な知識から、具体的な費用、行政手続きや法要の流れ、新しいご遺骨の供養方法、そして後悔しないための注意点まで、網羅的に解説します。
墓じまいとは?
墓じまいとは、現在使用しているお墓の墓石を撤去・解体して更地にし、墓地の使用権を管理者に返還する一連の手続きです。取り出したご遺骨は、別の場所で新たに供養します。
近年、少子高齢化や核家族化、ライフスタイルの多様化などを背景に、お墓の維持管理が難しくなり、墓じまいを選択する方が増加傾向にあります。墓じまいは、お墓を無縁仏にしてしまうのを防ぎ、自分たちの代で供養の在り方を見直すための前向きな選択肢の一つです。これまでの感謝を伝え、新たな形で故人をしのぶための大切な節目といえるでしょう。
墓じまいを検討する理由
墓じまいを検討する理由は、ご家庭の事情や個人の考え方によってさまざまです。
多いのは「お墓を継承してくれる子どもがいない」「子どもはいるが娘だけで、嫁ぎ先にお墓がある」といった後継者に関する問題です。また子どもや孫の世代に「お墓の管理で迷惑や負担をかけたくない」と考える方も少なくありません。
お墓が遠方にあってなかなかお墓参りに行けない、管理が難しいという物理的な問題や、墓地の年間管理費といった経済的な負担を理由に挙げる声も聞かれます。その他、ご自身の終活の一環として身辺整理を進めておきたい、故郷のお墓を現在の住まいの近くに移して供養しやすくしたい(改葬)というニーズや、供養に対する考え方の変化も墓じまいを後押しする要因となっています。
墓じまいと「改葬」の違いは?
改葬とは、お墓に納められているご遺骨を、別のお墓や納骨堂といった新しい供養先に移すことです。いわば「お墓のお引越し」を指します。
一方、墓じまいは、現在のお墓を撤去・解体して更地に戻す行為そのものです。そのため、一般的に墓じまいは改葬を行うための一連のプロセスに含まれるものと捉えられています。つまり「今あるお墓を整理し(墓じまい)、取り出したご遺骨を新しい場所へ移す(改葬)」という流れになります。なお、改葬を行う際には、市区町村の役所からの「改葬許可証」の発行が必要です。
墓じまいの費用相場と内訳
墓じまいを具体的に検討する上で、多くの方が気になるのが費用ではないでしょうか。ここでは、新しい供養先にかかる費用以外の3つの内訳について詳しく解説します。
墓じまいにかかる費用の総額相場
墓じまいにかかる費用の総額は、ご遺骨をどこでどのように供養するかによって大きく変わるため、一概にはいえません。一般的に、お墓の撤去から行政手続き、法要、そして新しい納骨先にかかる費用までを全て含めると、30万~300万円程度が目安とされています。
費用の総額にこれほど幅があるのは、新しい供養先の選択肢によるものです。例えば、新しく墓石を建ててお墓を作る場合は高額になる傾向があります。一方で、永代供養墓や樹木葬、納骨堂などを選び、ご遺骨をまとめて供養する合祀にするか、個別に安置するかによっても費用は変動します。
【内訳1】お墓の解体・撤去費用
現在のお墓からご遺骨を取り出した後、墓石を解体・撤去し、更地に戻すための工事費用です。この費用は、一般的に石材店へ依頼します。
費用の相場は1㎡当たり8万~15万円程度とされていますが、墓地の広さや墓石の大きさ、石材の量などによって変動します。また重機が入りにくい場所や山間部など、お墓の立地条件によっては作業員の人件費や運搬費がかさみ、追加料金が発生するケースも少なくありません。複数の石材店から見積もりを取り、費用の内訳や作業内容を比較検討すると良いでしょう。
【内訳2】閉眼供養・離檀料など宗教関連費用
墓じまいでは、お墓の撤去工事の前に僧侶にお経を上げてもらう「閉眼供養(へいがんくよう)」を行います。これは、墓石に宿っているとされる故人の魂を抜き、ただの石に戻すための儀式で、「魂抜き」「お性根抜き」などとも呼ばれます。この際に、僧侶へお渡しするお布施の相場は3万~10万円程度です。
お寺の檀家になっている場合は、檀家をやめるための「離檀料(りだんりょう)」が必要になることがあります。離檀料は法律で定められたものではなく、あくまでこれまでの感謝を伝えるお布施という位置づけです。金額に決まりはありませんが、一般的な法要1回分(3万~10万円程度)が目安とされています。トラブルを避けるためにも、事前に住職へ丁寧に相談しておくことが大切です。
【内訳3】行政手続き関連の費用
墓じまいをしてご遺骨を別の場所に移す「改葬」を行うには、市区町村の役所から「改葬許可証」を発行してもらう必要があります。
その申請手続きの中で、手数料が発生する場合があります。具体的には、現在のお墓の管理者から「埋蔵(収蔵)証明書」を、新しいご遺骨の供養先から「受入証明書」を発行してもらう際に、1通当たり数百~1,500円程度の手数料がかかることが一般的です。これらの書類をそろえて役所に提出し、改葬許可証を受け取ります。
【内訳4】新しい納骨先・供養方法にかかる費用
墓じまい後のご遺骨の供養先にかかる費用は、総額を大きく左右する項目です。新たに墓石を建てる場合は、永代使用料や墓石工事費などで100万円以上の費用がかかることもあります。
近年では、永代供養墓(10万円~)、納骨堂(30万円~)、樹木葬(20万円~)といった、より費用を抑えられる選択肢も人気です。この他、海や山にご遺骨を撒く散骨(5万円~)や、ご遺骨の一部を自宅で保管する手元供養といった方法もあります。どの供養方法を選ぶかによって費用は大きく異なるため、ご自身の希望や予算に合わせて慎重に検討しましょう。
墓じまいの手続きの流れ
墓じまいをスムーズに進めるには、事前の準備と段取りが重要です。ここでは、墓じまいを考え始めてから完了するまでの一般的な流れを7つのステップに分けて、それぞれ詳しく解説していきます。
【ステップ1】親族間の話し合いと合意形成
墓じまいを考え始めたら、具体的な行動に移す前に、親族間で話し合いの場を設けましょう。お墓は個人の所有物ではなく、ご先祖様から受け継いできた家族・親族全員にかかわる大切なものです。
まずは、誰が中心となってお墓を管理しているのか、墓じまいにかかる費用は誰がどのように負担するのか、そして墓じまい後のご遺骨をどのように供養していきたいかについて、関係者の意見を丁寧に聞きましょう。後々のトラブルを防ぐためにも、一方的に話を進めるのではなく、全員が納得できる形で合意を得ておくことが最初の重要な一歩です。
【ステップ2】墓地管理者への相談と確認
親族間の合意が得られたら、次はお墓があるお寺や霊園の管理者に墓じまいの意向を伝えます。長年お世話になった感謝の気持ちを伝えつつ、今後の手続きについて相談しましょう。
このとき、墓じまいの具体的な手順、必要な書類、墓石の撤去工事に関する決まり(指定石材店の有無など)を詳しく確認しておきます。特にお寺の檀家になっている場合は、離檀に向けた手続きについてもこのタイミングで相談することが、円満な墓じまいにつながります。一方的に通告するのではなく、丁寧なコミュニケーションを心掛けましょう。
【ステップ3】新しい納骨先の決定と契約
現在のお墓の管理者と話を進めると同時に、取り出したご遺骨の新しい受け入れ先(改葬先)を探し、決定します。前の章で解説したように、供養方法には新しくお墓を建てる他、永代供養墓、納骨堂、樹木葬、散骨などさまざまな選択肢があります。
それぞれのメリット・デメリットを比較し、費用、立地(通いやすさ)、管理方法、宗教・宗派の条件などを考慮して、ご自身やご家族の希望に合った場所を選びましょう。受け入れ先が正式に決まったら契約を結び、後の行政手続きで必要となる「受入証明書(永代使用許可証など)」を発行してもらいます。この書類がないと次のステップに進めないため、忘れずに受け取っておきましょう。
【ステップ4】行政手続き(改葬許可申請)
新しい納骨先が決まり「受入証明書」を受け取ったら、現在お墓がある市区町村の役所で「改葬許可申請」を行います。ご遺骨を他の場所へ移動させるには、法律でこの手続きが義務付けられています。
申請には、主に以下の3つの書類が必要です。
- 改葬許可申請書:役所の窓口やウェブサイトから入手
- 埋葬(収蔵)証明書:現在のお墓の管理者に発行してもらう
- 受入証明書:新しい納骨先の管理者に発行してもらう
これらの書類をそろえて役所に提出し、不備がなければ数日から1週間程度で「改葬許可証」が交付されます。自治体によって書式や手順が異なる場合があるため、事前に確認しておくとスムーズです。
【ステップ5】閉眼供養と遺骨の取り出し
行政から「改葬許可証」が交付されたら、いよいよお墓からご遺骨を取り出す作業に進みます。ご遺骨を取り出す前には、僧侶を招いて「閉眼供養(へいがんくよう)」の法要を執り行います。これは、墓石に宿る故人の魂を抜き、ただの石に戻すための大切な儀式です。
事前に僧侶と日程を調整し、お布施を準備しておきましょう。閉眼供養が終わったら、ご遺骨の取り出し作業に移ります。この作業はご自身で行うことも可能ですが、多くの場合、専門知識のある石材店に依頼するのが一般的です。
【ステップ6】墓石の解体・撤去と墓所の返還
ご遺骨を取り出した後、石材店に依頼して墓石の解体・撤去工事を行います。墓石だけではなく、お墓の基礎部分なども全て撤去し、区画を更地に戻すのが基本です。
工事が完了し、きれいに整地されたことを確認したら、墓地の管理者に墓所を返還します。これで、現在のお墓に関する手続きは全て終了です。なお、墓地によっては工事を行える業者が決まっている「指定石材店制度」があるため、事前に管理者へ確認した内容に従いましょう。
【ステップ7】新しい納骨先への納骨と開眼供養
墓じまいと改葬の最終ステップは、新しい納骨先へご遺骨を納める「納骨」です。納骨の際には、市区町村の役所で発行された「改葬許可証」を新しい納骨先の管理者に提出する必要がありますので、忘れずに持参しましょう。
また新たにお墓を建てた場合は、納骨式に合わせて「開眼供養(かいげんくよう)」の法要を執り行います。これは閉眼供養とは逆に、新しいお墓に魂を入れるための儀式です。この納骨と法要をもって、一連の墓じまいと改葬の手続きは全て完了となります。
墓じまい後の供養方法|主な選択肢と特徴
近年では、従来のお墓を建てるという選択肢だけではなく、個人のライフスタイルや価値観に合わせた多様な供養方法が選ばれるようになっています。ここでは、墓じまい後の主な供養方法について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを詳しくご紹介します。
新しいお墓を建てる(一般墓)
「宗教不問の霊園に移りたい」「元のお墓が家から遠く、近い場所に移したい」といった理由であれば、別の場所に新しくお墓を建てる方法が考えられます。家族や親族が代々受け継いでいくことを前提としており、従来通りのお墓参りができる安心感があります。
一方で、永代使用料や墓石の建立費用で100万円以上の費用がかかるなど、金銭的な負担は比較的大きいです。またお墓を維持するための年間管理費も必要です。墓じまいを検討する理由に後継者問題も含まれる場合、その課題が将来的に再び発生する可能性も考慮しておきましょう。
永代供養墓
永代供養墓とは、ご遺骨の管理や供養を霊園やお寺が永代にわたって行ってくれるお墓のことです。継承者がいない方でも利用できるのが大きなメリットで、お墓の管理に手間がかからず、費用も抑えやすい傾向があります。
永代供養墓には、最初から他の方のご遺骨と一緒に納める「合祀墓」、一定期間は個別に安置され、その後合祀される「個別安置型」など、いくつかの種類があります。ただし、一度合祀されるとご遺骨を個別に取り出すことはできなくなるため、事前に親族とよく話し合っておきましょう。
納骨堂
納骨堂は、主に屋内に設置された個別の納骨スペースにご遺骨を安置する施設です。天候に左右されず快適にお参りができ、駅の近くなど交通アクセスの良い立地にあることが多いのが魅力です。
ロッカーのように個別のスペースが並ぶ「ロッカー型」、仏壇と納骨スペースが一体になった「仏壇型」、カードキーなどをかざすとお参りスペースにご遺骨が運ばれてくる「自動搬送型」など、さまざまなタイプがあります。ただし、個別スペースの使用には期限が設けられており、定められた期間の終了後は合祀されるのが一般的です。
樹木葬
樹木葬は、墓石の代わりに樹木や草花をシンボルとして、その周辺にご遺骨を埋葬する供養方法です。「自然に還りたい」という考えを持つ方に人気があり、宗教や宗派を問わない霊園が多いのも特徴です。
一本の大きな木をシンボルとして複数の方のご遺骨を埋葬する「シンボルツリー型」や、美しい庭園のような区画に個別に埋葬する「ガーデニング型」などがあります。比較的費用を抑えられますが、一度埋葬するとご遺骨を取り出せないことが多く、場所によっては交通の便が良くない場合もあるため、現地を見学して検討すると良いでしょう。
散骨(海洋散骨・山林散骨)
散骨は、ご遺骨を粉末状にして、海や山林といった自然の中に撒く供養方法です。お墓を持たず、自然に還るという価値観を反映した選択肢で、お墓の維持管理費がかからず、費用を抑えられるというメリットがあります。
ただし、ご遺骨が手元から完全になくなってしまうため、お墓のような具体的なお参りの対象がなくなります。また散骨に対してはさまざまな考え方があるため、親族の理解を得ることが不可欠です。散骨を行う際は、個人で判断せず、ルールやマナーを理解している専門の業者に相談・依頼するのが一般的です。
手元供養
手元供養とは、ご遺骨の全部または一部を自宅などの身近な場所に保管して供養する方法です。小さな骨壺(ミニ骨壺)にご遺骨を納めたり、ご遺骨の一部をパウダー状にしてペンダントや指輪などのアクセサリーに加工したりするケースが一般的です。
故人をいつも身近に感じていたい方や、お墓が遠方ですぐにお参りに行けない方にとっては、心の拠り所となるでしょう。ただし、全てのご遺骨を自宅で保管する場合、将来的に自分が亡くなった後にそのご遺骨をどうするのか、最終的な供養先まで考えておく必要があります。そのため、ご遺骨の大部分は永代供養墓などに納め、一部だけを手元供養にするという方もいます。
墓じまいで後悔しないための注意点とトラブル対策
墓じまいを行う際は、事前の準備やコミュニケーションが不足していると、思わぬトラブルに発展したり「このようなはずではなかった」と後悔につながったりするケースも少なくありません。ここでは、墓じまいで後悔しないために押さえておきたい注意点と、よくあるトラブルへの対策を解説します。
親族とのコミュニケーションを欠かさない
墓じまいに関するトラブルで特に多いのが、親族間での意見の相違です。事前に十分な説明がないまま話を進めてしまい、後から「聞いていない」と反対されたり、費用負担の割合や新しい供養方法をめぐって対立してしまったりするケースが見られます。お墓は個人ではなく、親族にとって大切な場所であるという認識を共有することが重要です。
トラブルを防ぐには、まず墓じまいを考えた理由や背景を丁寧に説明し、話し合いの場を設けることが大切です。時間はかかっても、一人ひとりの意見に耳を傾け、全員が納得できる着地点を探しましょう。当事者同士では感情的になってしまう場合は、他の親戚など、信頼できる第三者に間に入ってもらうのも有効な方法です。
お寺や霊園と話し合う
長年お世話になってきたお寺や霊園の管理者との事前の話し合いも、円満な墓じまいのための重要なポイントです。何の相談もなく、一方的に墓じまいを通告してしまうと、関係性がこじれ、高額な離檀料を請求されるといったトラブルに発展することがあります。また墓石の撤去工事は、指定の石材店以外認められないといった規約がある場合も少なくありません。
まずは墓地の規約や契約内容を改めて確認し、これまでの感謝の気持ちを伝えながら、丁寧に相談を持ちかける姿勢が大切です。もし話し合いが難航した場合は、行政書士などの専門家に相談することも検討しましょう。誠意あるコミュニケーションを心掛けることが、円満な解決への近道です。
費用の見積もりを取る
墓石の解体・撤去費用をめぐるトラブルにも注意が必要です。最初に提示された見積もりが安かったのに、作業が終わってから「重機が入れず人件費がかさんだ」などの理由で、高額な追加料金を請求されるケースがあります。
こうした事態を避けるためにも、複数の石材店から相見積もりを取り、内容を比較検討しましょう。その際は、総額だけではなく「どのような作業にいくらかかるのか」という内訳まで細かく確認します。契約前には、追加費用が発生する可能性があるかどうか、ある場合はどのようなケースが考えられるかを書面で確認しておくと安心です。
墓じまい後の供養方法は慎重に決める
墓じまい後の供養方法を安易に決めてしまい、後悔するケースもあります。「費用が安いから」という理由だけで選んだ結果、お参りに行きにくい不便な場所だったり、散骨にしたものの手を合わせる対象がなく寂しく感じたり、といった声も聞かれます。
新しい供養方法は、自分一人の考えで決めるのではなく、家族や親族と「今後どのように故人をしのんでいきたいか」をよく話し合ってから決めるようにしましょう。それぞれの供養方法のメリット・デメリットを正しく理解し、将来的なお参りのしやすさなども含めて、長期的な視点で慎重に選ぶことが、後悔しないためのポイントです。
まとめ
お墓の継承や管理の難しさから墓じまいを考えることは、ご先祖様や大切な故人への供養をないがしろにしているわけではありません。むしろ、自分たちの代で責任を持ち、将来にわたって心の負担なく供養を続けていくための、前向きで誠実な選択といえるでしょう。親族や関係者と丁寧に話し合い、費用や手続き、新しい供養方法について情報を集めて計画的に進めれば、きっとご自身やご家族にとって納得のいく形が見つかります。
もし墓じまいに関するお悩みや、具体的な進め方で分からないことがあれば、一人で抱え込まず専門家へ相談してみてはいかがでしょうか。サン・ライフでは、お客さま一人ひとりのご事情に寄り添いご提案をいたします。ぜひお気軽にご相談ください。