現在では行う人も少なくなった「陰膳(かげぜん)」ですが、これは大切な人を思って行う大切な儀式です。ここではこの「陰膳」というキーワードを取り上げ、「そもそも陰膳とはどんなものか」「陰膳で使う仏具にはどんなものがあるのか」「陰膳の料理の基本」「陰膳のお供えの仕方」「陰膳を下げる方法」について解説していきます。
陰膳とは
陰膳には、「家族の安全を願う」という意味と、「故人の無事を祈る」という意味の2つがあります。
1つずつ見ていきましょう。
家族の安全を願う
昔、陰膳は遠く離れて暮らす人の無事を願うために作られていました。
現在は電話やインターネットで、気軽に遠方の家族とも連絡が取れます。しかしかつての連絡の手段は、現在よりもずっとずっと遅くかつ不安定な「手紙」に限られていました。また、旅は今よりもずっと危険なものでしたし、戦争もありました。
そのようななかで、「遠方に住む家族が飢えないように」「遠方にいる家族が無事でありますように」と祈って陰膳が用意されるようになったのです。
故人の無事を祈る
陰膳のもう1つの意味は、「故人の旅が安らかであることを祈る」というものがあります。現在の「陰膳」は、この意味合いが強いかもしれません。
仏教(※浄土真宗は除く)では、「亡くなった人は49日間をかけて旅をする」と考えられています。この冥途の旅のなかで、故人が食事に困らないようにと願って、49日間の間陰膳を捧げ続けるという考え方が生まれました。
ちなみに、実際にはすでに旅を終えた一周忌などの法要のときでも、「故人の食事」として陰膳が作られることがあります。
なお下記では、特筆すべき事情がない限り、「陰膳=故人の旅の無事を祈るためのもの」としてお話していきます。
前半で挙げた、「離れた家族を思って作る陰膳」は原則として取り上げません。
陰膳で使う仏具と並べ方
陰膳に使われる食器も「仏具」のひとつとして扱われます。そしてこれには、「並べ方」が明確に定められています。
陰膳で使用する仏具の特徴
陰膳では仏膳椀(ぶつぜんわん)が使われます。これは陰膳用の食器を指します。
ちなみに「仏様に捧げる食事を置くもの」として、仏壇に置かれる茶湯器や仏飯器がありますが、これと陰膳の食器は明確に区別されます。前者は、49日に限らず毎日使われるもので、基本的には「ごはんを盛り付けるもの」と「お茶を入れるもの」と「漬物などを置くもの」の3つで構成されます。
しかし陰膳用の食器は、5つで構成され、かつ49日を過ぎれば基本的には使われないという違いがあります。
なおこの仏膳椀の素材は多様で、木製や漆処理をしたものはもちろん、プラスチック類も使われます。なお漆製品は熱に弱いので、この点には注意しておきましょう。
仏具の名称と配置
陰膳のときに使われる仏膳椀には、それぞれ名称と使い方、置き方があります。1つずつ見ていきましょう。
- 親碗はご飯用の食器で、一般の食事の「飯茶碗」と同じ形をしています。膳の前、左に置かれます。
- 汁椀は汁物用の食器で、一般的な食事の味噌汁椀などと同じ形をしています。膳の前、右に置かれます。
- 高坏は漬物用の食器で、低めの脚のついた少し浅めのお椀です。膳の中央に置かれます。
- 平椀は煮物や和え物用の食器で、親碗より少し小さく作られているのが一般的です。膳の奥・左に置かれます。
- 壷椀は煮豆や和え物用の食器です。汁椀よりも少しスレンダーな形をしていることが多いのですが、このあたりは物によって多少違いがあります。膳の奥、右に置かれます。
陰膳の料理とは
陰膳のときに使う仏具(食器)について学んだところで、ここからは陰膳に盛り付ける料理について解説します。
基本的には精進料理を用意する
陰膳に盛り付ける料理は、明確に「これにしなければならない」というルールはありません。ただ、現在は火葬の日に精進落としの席を設けることが多いとはいえ、仏教ではもともとは「四十九日間は精進料理とする」という考えがあります。そのため、四十九日まで出すことになる陰膳も、原則として肉や魚は避けた方がよいでしょう。また、卵なども避けた方が無難です。
ちなみに所運料理の考え方は、もともと中国で仏教を学んでいた禅僧がもたらしたものだといわれています。
ただし、一周忌法要などの法要で用意する陰膳については、すでに精進落としが済んでいると考えられるため、肉や魚を用いても問題ありません。
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ニンニクなどの臭いのある物を使った料理は避ける
陰膳では、ニニクなどの臭いの強い食材も避けた方がよいとされています。
これは、ニンニク・ネギ・ラッキョウ・アサギ・ニラは、「五葷」と称されており、煩悩を呼び起こすものとして避けられてきたことに由来します。
これらを考慮して陰膳のメニューを考えてみました。
- 大根などのつけもの
- 人参やれんこん、サトイモなどの炊き合わせ
- 金時豆の甘煮
- お麩と季節野菜の吸い物
- 白飯
これはあくまで一例です。実際には、ご家庭で無理なく作れるものをお供えするかたちでよいでしょう。
陰膳の供え方や気をつけるべき点
ここからは、陰膳のお供えの仕方や気を付けるべき点について紹介していきます。
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陰膳は仏壇や位牌に向けて置く
故人のために用意することになる陰膳は、故人がいる場所である「仏壇」「位牌」に向かって置くようにします。ただ仏壇には陰膳を置くスペースはないと思われますから、専用の台や、故人が使っていた小さなテーブルなどに置いてお供えする形になるでしょう。なおこのとき、箸は仏壇側(故人側)に向かって置くことになります。これが基本のかたちです。
ただ、「(四十九日法要までの陰膳ではなく)一周忌法要などのときに置く陰膳」の場合はまた話が異なります。
この場合は、部屋の中央かつ上座に位牌や遺影が飾られることになりますが、陰膳もその位牌や遺影の前に置くことになります。
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陰膳で使用した料理は最後に家族で食べる
陰膳で使った料理は、その後は「おさがり」として家族全員で食べるようにするのが一般的なマナーです。
なお、「一周忌法要で陰膳を用意したが、家族はすでに自分用の分の食事を食べており、陰膳までは食べられない」という場合は、一口だけでも口をつけるようにしましょう。
ちなみに、衛生面に問題がないと判断される状況ならば、次の食事のときに食べても問題ありません。
浄土真宗では準備しない
上でも少し触れましたが、浄土真宗では陰膳は用意しません。
陰膳は、一周忌などの法要のときに用意するものや遠方に住む家族の無事を祈って作られるものを除き、「故人が冥途の旅の最中に、お腹を減らしたり、喉が渇いたりしないように」という願いを込めて作られるものです。
しかし浄土真宗の場合、「仏様を信じ、南無阿弥陀仏と唱えさえすれば、人は即得往生(=亡くなってすぐに阿弥陀仏によって浄土に導かれ、成仏する)ができる」と考えます。
「冥途を旅する」という考えがないため、陰膳を用意する必要がないのです。
同じ「仏教」であっても、宗派ごとに考えに違いがみられる点には注意しておきましょう。
まとめ
陰膳とは、遠方に住む家族や亡くなった人を思って用意する食事です。
陰膳は5つの食器(仏具)から成り、それぞれに特徴があります。
またこれに盛り付ける料理は精進料理を基本として、臭いの強いものは避けます。
陰膳を置く場合は、仏壇から見て正位置に来るようにし、下げた料理はみんなで食べましょう。ただし浄土真宗では陰膳を使いません。
陰膳を初めとして、葬儀・法事法要・供養についてのご不明点があれば、なんなりと「サン・ライフ」にお問い合わせください。