
家族や親族が亡くなり、遺品を整理している際に、故人が生前、身に着けていたものや大切にしていたものを捨ててしまうことに抵抗を覚える方もいるでしょう。形見分けは、それらの遺品を家族や親族などに分けて受け継ぐことで、故人を懐かしみ、供養することができる方法です。
本記事では、形見分けについて知りたい方や検討している方に向けて、形見分けとは何か、対象となるものや対象者の範囲、行う時期などの基本知識から、具体的な進め方や注意したいポイント・マナーまで分かりやすく解説します。形見分けについて知らない方やこれから形見分けをしようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
形見分けについての基礎知識
形見分けという言葉は知っているものの、そもそも形見分けがどのようなものかを知らないという方もいるのではないでしょうか。
ここでは形見分けとは何か、対象のものや対象者などの基礎知識について解説します。形見分けを検討している方は、チェックしてみてください。
形見分けとは
そもそも「形見(かたみ)」とは、故人が生前に大切にしていたものや思い出のあるものなどを指し、それを故人の家族や親族、友人などに分けて、身近に置くことで故人を懐かしむことを「形見分け」といいます。形見分けは地域によって呼び方が異なり、「裾分け(すそわけ)」「袖分け(そでわけ)」「しょうぶわけ」などという場所もあります。
日本で形見分けが初めて行われたとされているのは平安時代です。当初は、形見分けには故人の魂を受け継ぐ意味があったため、着物のように魂が宿りやすいといわれている品物を使っていました。
形見の品の対象となる物
形見の品の対象となる物としては、故人が生前によく使っていた品物や衣服、仏具などです。具体的な品物の例は、以下の通りです。
- 指輪
- ネックレス
- ブローチ
- 眼鏡
- 文房具
- 着物
- 礼服
- 絵画
- 骨董品
- レコード
- 古本
- 家具
- 家電 など
上記に挙げた物でも故障したり、傷みが見られたりする場合には形見分けには向かないため、避けましょう。また現金や金券は形見分けではなく、財産分与に当たります。他にも生き物は受け取る側の許可が必要なため、形見の品物には適しません。
形見分けの対象者の範囲
形見分けは、故人と生前に親しかった方であれば、どなたでも受け取りが可能です。一般的には故人の近親者が適当とされており、配偶者や子ども、孫、甥姪などに分配しますが、特に親しい友人や知人に分けるケースもあります。
故人より目上の方は基本的には対象外です。ただし、生前に故人と親しかった方や故人や本人の希望があった場合には、立場に関係なく形見分けをすることもあります。
形見分けをする際はトラブルを避けるため、必ず親族間で話し合いましょう。勝手に進めることはせず、法定相続人全員が納得できる形で行うことが大切です。
形見分けを行う時期
形見分けを行う時期は明確に定められていませんが、宗教によって適した時期が異なります。
例えば、仏教では四十九日の法要が終わってから形見分けを行うのが一般的です。四十九日法要とは、自宅や葬儀場に僧侶を呼び、読経や焼香などで故人が極楽浄土へ行けるように供養する儀式です。四十九日法要が行われるまで、遺族は喪に服す「忌中(きちゅう)」という期間を過ごし、終わると「忌明け(きあけ)」となります。忌明けを迎えると日常生活に戻れるため、そのタイミングで形見分けを行うケースが多いです。
神道では、仏教の忌明けに当たる三十日祭や五十日祭の後に形見分けを行います。ただし宗派によって時期が異なる場合もあるため、確認しておくのがおすすめです。
またキリスト教では追悼ミサの後が形見分けをするタイミングとされています。本来、キリスト教には形見分けを行う文化はありませんが、日本では故人の死亡後30日を過ぎたときに行う追悼ミサの後に形見分けをします。
形見分けの具体的な進め方3ステップ
ここからは形見分けの具体的な進め方3ステップをご紹介します。形見分けをスムーズに行うためにも、ぜひ確認してみてください。
1.形見分けする品物のリストアップと整理・分類
形見分けを行う際は、遺産分割協議をした後、形見分けする品物のリストアップと整理・分類を行います。遺産分割協議とは、法定相続人によって故人の遺産の分割を話し合い、合意することです。形見分けは独断で進めてはならず、必ず法定相続人の合意を得た上で行わなくてはなりません。特に資産価値の高いものについては、相続税や贈与税の対象である可能性があります。
遺産分割協議の後に形見分けを行わないと、遺産として扱わなくてはならないものを形見として渡してしまうなどのトラブルにつながるリスクがあるため、遺産分割協議によって形見分けする品物の価値を明らかにしておきましょう。
2.故人の遺志の有無を確認
形見分けをする前に、故人が生前に家族や親族、友人などに形見を渡すことを約束していたものがないかを確認しましょう。故人の遺志が分からないケースも多いですが、独断で進めてしまうと、本来は形見分けを希望していた品物を処分してしまったり、希望の相手以外に渡してしまったりすることもあります。できれば生前のうちに形見について話し合い、記録を残しておくのがおすすめです。
3.誰にどの品物を渡すかを検討
形見分けでは、誰にどの品物を渡すかでトラブルが発生することが少なくありません。特に比較的価値の高い形見の品物は、多くの方が形見分けでもらいたいと希望する可能性もあります。そのような品物は、故人と血縁関係の近い方から順番に分けると、トラブルを回避できるでしょう。あるいは、トラブルにつながりそうな形見は、棺に入れるのも一つの方法です。
法定相続人全員が合意しないと形見分けはできないため、納得できる方法を探すよう話し合いをしてみてください。
4.品物の分配
形見分けする品物や誰に渡すかが決まったら、品物を分配します。形見には、故人が生前よく使っていたものも含まれるため、渡すときには品物をきれいに手入れをしてから、親族や友人など、話し合いで決定した受取人に渡します。
形見分けを受け取った際は、お礼状やお礼の品を返さなくてもマナー違反ではありません。郵送で形見を受け取った場合には、電話やメールで無事に受け取りできたことを伝えると良いでしょう。
形見分けを行う上で注意したいポイント・マナー
形見分けをする機会は人生でもあまりないため、知らぬ間にマナー違反とされる行為をしてしまうこともあるかもしれません。
ここでは形見分けを行う上で注意したいポイントやマナーを解説します。渡す相手に失礼にならないよう、しっかり確認しておきましょう。
故人の遺志を優先する
故人が愛用していたものの中には、生前のうちに誰に受け継ぎたいのかを話している場合があります。もし故人の遺志が分かるときは、その気持ちを優先し、希望の相手の手に渡るようにしましょう。
ただし、故人の遺志が分からないケースも多いため、その際は法定相続人間で話し合い、全員が納得できるように形見分けを行ってください。
そのまま渡すか半紙に包んで渡す
形見を渡すときには、プレゼントのように包装する必要はありません。基本的には、そのまま渡すのがマナーとされています。
もしそのまま渡すことに抵抗がある場合は、半紙などの白い紙で軽く包んで渡しましょう。半紙で包む際は、表書きに仏教なら「遺品」、神道では「偲ぶ草」と書くと丁寧な印象になります。
手入れしてから形見分けをする
形見はクリーニングなどで汚れを落とし、壊れた部分は修理してから贈るのがマナーです。中でもアクセサリーや衣服など、身に着ける機会の多いものは汚れやすいため、注意が必要です。
形見を渡す相手は、家族や親族など親しい間柄ではありますが、せっかくの形見の品物が汚れていたり、壊れていたりしたら、受け取る側は悲しい気持ちになります。特に故人が生前、親しくしていた友人や知人に贈るときには、家族や親族以上に気を配らなくてはなりません。
また万年筆などの定期的なメンテナンスが必要なものは、動作確認をして、正常に使えるかも確認しておきましょう。時計などの機械類や食器類、美術品など、自分でクリーニングしたり、修理したりするのが難しいものに関しては、専門の業者に依頼するのがおすすめです。
形見分けに関するよくある質問
ここでは形見分けに関するよくある質問をご紹介します。ここまでに解説した内容の復習も兼ねて、確認してみてください。
形見分けの際は税金が発生する?
形見分けを行う品物は、資産価値のないものが対象となるため、基本的には贈与税や相続税が発生しません。ただし、形見分けした品物の中に資産価値のあるものが含まれていた場合には、品物の受け取り側に贈与税が発生してしまいます。形見分けで資産価値があると判断される可能性のある品物の例は以下の通りです。
- 絵画や骨董品などの美術品
- 宝飾品類
- 着物
- 盆栽
- 故人の趣味のコレクション など
資産価値のあるものかどうか判断がつかない場合は、査定や鑑定を依頼してから形見分けを行うのが良いでしょう。
形見分けと遺品整理・遺産分割の違いは?
形見分けを行う際に知っておきたい言葉として、「遺品整理」と「遺産分割」があります。
前述の通り、形見分けとは、故人が生前に大切にしていた品物を家族や親族、親しかった友人や知人に贈ることです。対して遺品整理は、故人が大切にしていた品物に限らず、消耗品や日用品のような生活用品も整理する必要があります。そのため故人が亡くなったら、まずは遺品整理を行い、遺品を残すものと処分するものに分けた後で、残す遺品の中から形見の品物を選んで、形見分けをするケースがほとんどです。
また形見に当たらない資産価値の高い遺産の分配について法定相続人で話し合い、分配するのが遺産分割です。対象物としては、資産や土地、建物などが該当します。
まとめ
故人を身近に感じることができるため、処分できない遺品は形見分けするのも一つの方法です。しかし、やり方を間違えてしまうと、受け取り手に税金が発生してしまったり、マナー違反によりトラブルに発展したりする恐れもあります。今回解説した手順を確認し、法定相続人全員が納得できる形見分けを目指しましょう。
サン・ライフでは、遺品整理のサービスを提供しています。家族で遺品を整理した後でサン・ライフ側で供養する方法と、形見分けするものと供養するものを打ち合わせして、遺品整理を委託する方法の2パターンを用意しています。遺品の数が多いと整理するのにも時間と手間がかかってしまうため、お困りの方はお気軽にご相談ください。