
故人をしのぶ際、その生涯を表す言葉として「享年(きょうねん)」や「行年(ぎょうねん)」が使われます。しかし、位牌や墓石、喪中はがきなどに記す際、「どちらを使うべきなのだろう」「年齢の数え方が違うと聞いたけれど、どう計算するの?」と迷われた経験はないでしょうか。
これらの言葉には、それぞれ由来や伝統的な数え方に違いがあり、そのために混乱が生じやすいです。
本記事では、葬儀にまつわる言葉の中でもご質問の多い「享年」に焦点を当て、その意味や行年との明確な違い、そして正しい年齢の数え方を分かりやすく解説します。
「享年(きょうねん)」とは?
「享年」とは、故人様がこの世で生きた年数を表す言葉です。「享」という漢字には、「天から授かったものを受ける」「享受する」といった意味があります。「享年」は「天から授かった寿命を全うした年数」という、敬意を込めたニュアンスで用いられる言葉です。
享年は、位牌や墓石、喪中はがき、法要の際の案内状のような、故人をしのぶためのさまざまなものに記されます。
「享年」という言葉自体に「〇年間生きた」という意味が含まれているため、「歳」や「才」を付けずに「享年 88」のように表記するのが一般的でした。
しかし近年では、年齢であることがより分かりやすいように「享年 88歳」と表記するケースも増えています。どちらの表記も間違いではありませんが、お寺や地域によっては昔ながらの慣習を重んじる場合もあります。表記に迷った際は、菩提寺の住職や、付き合いのある葬儀社に確認するのが良いでしょう。
享年の数え方(数え年)の基本
享年を理解する上で重要なのが、その数え方です。享年は伝統的に「数え年」で計算されます。
「数え年」とは、生まれた時点を「1歳」とし、その後は元日(1月1日)を迎えるたびに1歳ずつ年を加えるという数え方です。現代の私たちが日常的に使っている「満年齢」のように「0歳」という概念がないのが大きな特徴です。母親の胎内にいる期間(約十月十日)も命の期間と捉え、命の始まりとする考え方に基づいているという説があります。
日本では、1950年(昭和25年)に「年齢のとなえ方に関する法律」が施行されるまで、年齢は数え年で表すのが一般的でした。その名残で、特に仏教行事や長寿のお祝いなど、伝統を重んじる場面では今でも数え年が用いられています。
数え年の計算は少し複雑に感じるかもしれませんが、以下のルールを覚えれば簡単です。
- その年の誕生日を迎える前に亡くなった場合:満年齢 + 2歳
- その年の誕生日を迎えた後に亡くなった場合:満年齢 + 1歳
例えば1960年(昭和35年)5月10日生まれの方の場合、2025年(令和7年)4月20日に亡くなった場合は満年齢は「64歳」であり、数え年の計算は「満年齢 + 2歳」なので、64 + 2 = 66歳となり、享年は「66」となります。
同じ誕生日の方が2025年(令和7年)8月15日に亡くなった場合の満年齢は「65歳」ですが、計算方法は「満年齢 + 1歳」なので、この場合も、享年は「66」となります。
享年と「行年(ぎょうねん)」の違い
享年とよく似た言葉に「行年」があります。この二つの違いが、年齢表記で混乱しやすい点です。
「行年」の「行」という字には、「行く」「行う」の他に「修行する」という意味があります。このことから、行年は「この世で修行を積んだ年数」または「生きてきた年数」を表す言葉とされています。仏教において、人の一生は悟りを開くための修行の期間であると捉える考え方が由来です。
享年と行年の大きな違いは、一般的に用いられる年齢の数え方にあります。
- 享年:伝統的に「数え年」で数えることが多い
- 行年:一般的に「満年齢」で数えることが多い
ただし、これはあくまで一般的な傾向です。お寺や宗派によっては、行年を数え年で表記したり、享年を満年齢で考えたりする場合もあり、厳密な決まりがあるわけではありません。
近年では、公的な書類などでも使われ、誰にとっても分かりやすい「満年齢」で統一しようという考え方が広まっており、行年(満年齢)を用いるケースが増えています。
行年の数え方と満年齢について
行年を数える際に基準となることが多い「満年齢」についても、改めて確認しておきましょう。
満年齢とは、生まれた日を「0歳」とし、その後は誕生日を迎えるごとに1歳ずつ年齢を加算する数え方です。これは現在、日本で一般的に用いられている年齢の計算方法です。
先述の通り、1950年1月1日からは「年齢のとなえ方に関する法律」により、公の場では満年齢を使用することが推奨されています(※)。
このため、行年は多くの場合、このなじみ深い満年齢で表記されます。位牌や墓石に「行年 75才」「行年 八十歳」のように記載されている場合、その数字は故人様が亡くなった時点での満年齢であることがほとんどです。
※参考:e-Gov法令検索.「年齢のとなえ方に関する法律」.https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0100000096/ ,(参照 2025-06-09).
享年に関するよくある質問
ここでは、享年や行年に関して、特によく寄せられる質問とその回答をご紹介します。
Q1. 喪中はがきには享年と行年、どちらを書くべきですか?
A. どちらで記載しても間違いではありません。伝統を重んじる場合は享年(数え年)を、受け取った相手に分かりやすく伝えたい場合は行年(満年齢)を選ぶと良いでしょう。近年は、誰が見ても年齢が分かりやすいことから、満年齢で「行年 〇〇歳」または単に「〇〇歳」と記載するケースが増えています。故人との関係性、地域の慣習などを考慮して選ぶことをおすすめします。
Q2. 位牌や墓石にはどちらで刻むのが一般的ですか?
A. 伝統的には、仏教の教えに根差した享年(数え年)で刻むことが多く見られました。しかし、近年は分かりやすさを重視して行年(満年齢)で刻むケースも増えています。特に重要なのは、ご先祖様が眠る菩提寺の考え方や、同じお墓に眠るご先祖様の表記と統一することです。お墓を建立する際や、新しく位牌を作る際は、菩提寺の住職にご相談ください。
Q3. 享年や行年の使い分けに本当に迷ったら、誰に相談すればいいですか?
A. 菩提寺の住職への相談がおすすめです。お寺には長年の慣習や宗派ごとの考え方があるため、それに従うのが基本となります。また葬儀全体の進行を任せる葬儀社の担当者に相談するのも良いでしょう。
まとめ
享年と行年のどちらを使うかに厳格なルールはなく、近年は分かりやすい行年を用いるケースも見られます。表記に迷った際は、自己判断せず、菩提寺や葬儀社に確認しましょう。
故人をしのぶ気持ちを大切にしながら、正しい知識を持つことで、より安心して送り出せます。終活や葬儀に関するご不安やお悩みがあれば、株式会社サン・ライフにご相談ください。経験豊富なスタッフが、お客さま一人ひとりに寄り添い、心を込めてサポートいたします。
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