
葬儀後に行われる「お斎(おとき)」は、参列者への感謝と故人をしのぶ大切な場です。しかしいざ参列するとなると、「どんな意味があるの?」「どのようなマナーが求められるの?」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
喪主や遺族としてお斎を主催する立場になった方はもちろん、参列者として招かれた方にとっても、その作法やマナーを事前に知っておくことは大切です。
そこで本記事では、お斎の基本的な意味や目的から席での振る舞い方、挨拶の例文、準備のポイントに至るまで分かりやすく解説します。お葬式後の大切なひとときを迎えるための知識を身に付けましょう。
目次
お斎(おとき)とは?その意味と由来
仏事の場における「お斎」とは、「おさい」ではなく「おとき」あるいは「おとぎ」と読みます。お斎は故人をしのび、参列者と食事を囲む時間ですが、古くから続くこの習わしは時代と共に内容も変化を見せています。まずは、お斎の意味や内容を理解しておきましょう。
仏教における「斎(とき)」の意味
お斎(おとき)とは、主に法事や法要の後に催される会食を指します。地域によっては葬儀当日の朝に故人と共にいただく最後の食事や、出棺前の「出立ちの膳(いでだちのぜん)」を指すこともあります。
お斎は僧侶や参列してもらった方への感謝の気持ちを表すと共に、皆で故人をしのび、思い出を語り合う大切な時間です。
かつては精進料理が主流でしたが、近年では懐石料理や仕出し弁当など、必ずしも精進料理に限らず形式や内容も多様化しています。
お斎はご自宅や葬儀会場で行われることが多い一方で、寺院での法要後に料亭やレストランへ場所を移して催されるケースも珍しくありません。開催場所や内容は、故人やご遺族の意向によりさまざまです。
食事内容
伝統的には、お斎は野菜や豆腐などの大豆製品、こんにゃくといった食材を中心とした精進料理が提供されていました。忌明けまでは、殺生を避ける仏教的な意味合いが込められているからです。
しかし時代と共にこうした習慣も変わりつつあり、現在では精進料理に限定されずよりさまざまな料理が用意されるようになりました。一般的には懐石風の和食や仕出し弁当で、天ぷらや煮物、酢の物など、見た目にも華やかで栄養バランスの良い内容が多く選ばれています。
ただしお斎の手配を業者に依頼する際は、法事である旨を伝えるのが基本です。また祝いの席で用いられる鯛や伊勢海老など、縁起物とされる食材は避ける必要があります。
精進落としとの違い
「お斎」とよく混同されるのが「精進落とし」という言葉です。どちらも仏事の後の食事には違いありませんが、目的と行う時期に明確な違いがあります。
お斎は葬儀や法事の直後に行われる会食で、僧侶や参列者への感謝を伝え故人をしのぶ場として設けられます。
一方で精進落としは四十九日の忌明け後に行われる会食を指し、喪に服していた期間が終わり、感謝や労いの気持ちを込めて親族や近しい方と共に食事をする機会です。つまり、これまでの精進料理中心の生活から、通常の食生活に戻る節目を意味します。
厳密に言えば精進落としも「お斎」の一種ではありますが、行う意味とタイミング、目的が異なるという認識が一般的です。 精進落としについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
>>精進落としとは?出す料理や意味・マナーを解説!当日の流れや挨拶も
お斎の料理と費用の相場
お斎にかかる費用は、一人当たり3,000〜10,000円程度が相場とされています。ただし会場によって大きく異なります。例えば斎場やお寺での会食は比較的リーズナブルで、料亭やレストランでは中程度、ホテルなど格式の高い会場では一人当たりの金額が高くなるのが一般的です。そのため会場選びは予算を左右するポイントになるでしょう。
また三回忌以降のお斎は親族のみで行うケースが増え、一人当たり3,000〜5,000円程度と費用も抑えられます。さらに地域ごとの慣習や料理の内容によっても費用が変わるため、地元の風習も踏まえた計画が必要です。
サン・ライフでは、こうした仏事にふさわしい料理を各種ご用意しております。ご予算やご希望に応じたご提案も可能ですので、ぜひ参考にしてください。
お斎の流れと席順
お斎の場を円滑に進めるには、主催する遺族側だけではなく、参列する側も流れと席順も理解しておくと行動しやすくなります。ここからはお斎がどのように進行しどのような席順になるのか、一般的な例をご紹介します。
お斎の流れ
お斎は一般的に以下のような流れで進められます。
- 開式の挨拶
- 献杯
- 会食
- 親族代表の挨拶
まずは施主または遺族代表が参列者への感謝の言葉や故人の思い出などを述べ、お斎の開始を告げます。その後、代表者による発声で献杯を合図に会食が始まり、故人をしのび、思い出などを語り合いながら和やかな時間を過ごすという流れです。
そして予定の時間になったら、施主または親族代表が参列者に向けて改めて感謝の言葉を述べ、必要に応じて今後のことなども報告してお斎の終わりを締めくくります。
また法要からお斎までの流れを詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
お斎の席順
お斎の席順には、参列者への配慮や敬意が表れる大切な意味があります。基本的には司式を務めた僧侶が最上座、すなわち位牌や遺影に最も近い位置に座ります。そして、すぐ隣には施主や喪主が座るのが一般的です。
さらに親族以外の参列者が上座に位置し、親族は下座に座るという席次が基本となります。これは外部からの参列者を敬い感謝の気持ちを表す意味合いがあり、故人との関係が深い親族ほど末席に座るのが礼儀とされているからです。
もし僧侶がお斎に出席しない場合は、親族以外の参列者が上座、親族が下座という基本的な区分は維持しつつ、参列者同士が和やかに話しやすいように配慮した席配置にすると良いでしょう。
【例文あり】お斎の挨拶をシーン別で紹介
お斎の席では、状況に応じて計3回ほど挨拶をする機会があります。それぞれの場面での役割や立場を意識し、丁寧かつ気持ちのこもった言葉を述べることが大切です。ここではシーン別に挨拶の例文をご紹介します。
最初の挨拶
お斎の冒頭では、施主が参列者や僧侶に向けて感謝の気持ちを述べる挨拶を行います。長くなり過ぎず、故人をしのぶ言葉を含めて簡潔に伝えるのがポイントです。以下に例文をご紹介します。
【例1】 |
本日はご多忙の中、〇〇の法要にご参列いただき、誠にありがとうございます。ささやかではございますが、故人をしのぶお斎の席を設けましたので、どうぞごゆっくりお過ごしください。 |
【例2】 |
本日は〇〇の法要に際し、ご住職様にはお忙しい中お勤めいただき誠にありがとうございました。またご参列いただいた皆様にもお越しいただき、心より感謝申し上げます。ささやかではございますが、お斎を用意しておりますので故人の思い出を語り合いながらお過ごしください。 |
献杯の挨拶
献杯の挨拶は、故人と親しかった親族や友人が務めるのが一般的です。盃を合わせるのは控え、静かに杯を掲げる姿勢がマナーとされています。挨拶では故人を尊重し参加できたお礼を意識しましょう。
【例1】 |
本日は〇〇のご法要に際し、このような立派なお席にお招きいただきありがとうございます。〇〇には生前、本当にお世話になりました。ここに献杯させていただき、故人の冥福を心よりお祈り申し上げます。献杯。 |
【例2】 |
友人代表として突然のご指名に戸惑っておりますが、〇〇さんとは長年親しくさせていただきました。今日ここで、皆様とともに〇〇さんをしのぶ機会を得たことに感謝いたします。安らかな旅立ちを祈りつつ、献杯。 |
また献杯などの挨拶を詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
締めの挨拶
お斎の締めくくりは再度施主が挨拶を行い、参列者への感謝と会の終了を伝えます。飲酒をしている方も多いため、聞き取りやすいよう、少し大きめの声で話しましょう。
【例1】 |
本日はお忙しい中、〇〇の法要にご参列いただき、またお斎の席までお付き合いいただきありがとうございました。皆様のおかげで滞りなく終えることができました。これからも変わらぬお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。 |
【例2】 |
本日はご参列、ご会食と誠にありがとうございました。〇〇も皆様に見守られ、きっと安心して旅立てたと思います。今後とも〇〇家をよろしくお願いいたします。本日は本当にありがとうございました。 |
お斎をしないときの挨拶
諸事情でお斎を行わない場合には、その旨を丁寧に説明し参列者への感謝の言葉を添えるのがマナーです。
本日はお忙しい中、〇〇の葬儀にご参列いただき、誠にありがとうございます。皆様の温かいお心遣いにより、無事に葬儀を終えることができ心より感謝申し上げます。
本来であればこの後にお斎の席を設け、皆様と故人の思い出を語り合いたいところではございますが、時間などの都合により本日はお斎を見送らせていただくことにいたしました。本日は誠にありがとうございました。 |
挨拶する際の注意点
お斎での挨拶は、故人への敬意と参列者への感謝を伝える大切な場面です。特に以下の点に注意しましょう。
- 挨拶は長くなり過ぎない
- 温かく落ち着いた語り口を心掛ける
- 参列者の前面に立つ
- 辛かった思い出やネガティブな表現は避ける
- 重ね言葉を避ける
挨拶は長くなり過ぎず、簡潔にまとめるのが基本です。話す際は、温かく落ち着いた語り口を心掛け、参列者の前に立ってしっかり顔を見せることも大切です。また闘病など「辛かった」「苦しかった」といったネガティブな表現は避け、穏やかで前向きな言葉を選びましょう。
さらに「たびたび」「重ね重ね」などの重ね言葉は不幸が重なる意味合いを連想させるため、避けるのがマナーです。場の雰囲気に配慮し、品位のある挨拶を心掛けましょう。
返礼品(引き出物)の渡し方
お斎の席に参列してくださった方への感謝の気持ちを表すため、返礼品は大切な慣習の一つです。しかし渡すタイミングや品物の選び方には配慮すべき点があります。ここでは返礼品の意味とマナーを理解しておきましょう。
返礼品とは
法事での返礼品は、弔意への感謝と「悲しみを残さない」という意味が込められており、後に形として残らない消耗品がよく選ばれます。具体的にはお菓子やお茶、海苔など持ち帰りやすく、日持ちする食品類が定番です。
ただし一周忌や三回忌などでは、茶器やタオルといった実用品を選ぶ地域もあり、土地の風習によって受け入れられる品が異なる場合もあります。返礼品の金額相場は2,000〜5,000円程度が目安です。
なお近年では、贈る相手に選んでもらえるカタログギフトも人気を集めています。
返礼品を渡すタイミング
返礼品を渡すタイミングとしては、お開きの時間が近づいた頃、または事前に各参列者の席に配置しておくのが一般的です。
返礼品を配布する際は、まず僧侶の席から始め、その後席次や席順に従って他の参列者へ配ります。直接手渡しするのではなく、参列者の席の横に丁寧に配置するのがスマートな方法です。
もし僧侶へのお布施を法事の前に渡す場合は、その際に返礼品も一緒に渡しても差し支えないでしょう。返礼品の渡し方に関して不安な場合は、葬儀社に相談するのも一つの方法です。
返礼品に関する注意点
返礼品の選定では、弔事にふさわしくない品物を避ける必要があります。例えば昆布やかつお節などは、祝い事の贈答品として使われる縁起物なので、法事の返礼品としては適しません。
また生肉や生魚といった「四つ足生臭もの」は殺生を連想させ、仏教の考え方に反する品として敬遠されます。金券や商品券など金額が明確に分かる品も、受け取る側に気を遣わせたり、礼を欠いた印象を与えたりする可能性があります。
加えて、あまりに高額な品物も相手に心理的な負担を与える恐れがあるため、返礼品は相場を意識して選ぶのが礼儀です。地域の風習や参列者の状況も考慮して、配慮の行き届いた品選びを心掛けましょう。
地域・宗派によるお斎の違い
お斎は、故人をしのび感謝の気持ちを伝える大切な場ですが、地域や宗派によって微妙に異なります。知っておくと法事を進める上での混乱や不安が軽減され、より適切な対応が可能になるでしょう。ここでは宗派別・地域別の特徴をご紹介します。
浄土真宗におけるお斎とは
浄土真宗におけるお斎は、単なる食事の場ではなく、仏事の一環としての深い意味を持っています。特に親鸞聖人の命日とされる報恩講(ほうおんこう)のような大切な法要では、参拝者が米や野菜、味噌などを持ち寄り、皆で調理した料理を共にいただくという伝統が根付いています。
報恩講では、宗祖である親鸞聖人の教えや遺徳をしのび、念仏に出会った喜びを語り合うひとときを共有するのが特徴です。これは単なる追悼の食事ではなく、仏恩への感謝や人とのつながりを再確認する時間でもあります。
また本願寺第8代の蓮如上人が、食事の場で仏恩の尊さを語られたという逸話もあり、「食べることは生きること」という教えに基づいた意味も込められています。
関西と関東の違い
お斎の在り方には地域差もあり、中でも関西と関東では内容が若干異なります。関東地方では、法事後の会食に親族だけではなく一般の会葬者も招く形式が多く、料理も参加者全員に行き渡るよう多めに用意するのが一般的です。
一方、関西地方では、親族やごく親しい方だけを招く形式が見られ、一般会葬者にはお斎を振る舞わないケースも少なくありません。従って会食の規模や準備する料理の量にも違いが生じます。こうした地域性を理解しておくと、混乱を避け円滑に法要を進められるでしょう。
お斎をしないときはどうする?
お斎を執り行わない場合でも、その場で判断せず参列者への丁寧な配慮が必要です。ここではお斎を省略する際のポイントをご紹介します。
事前に伝えておく
お斎を行わないと決めた場合は、法事の案内状にその旨を明記するのがおすすめです。法要の準備段階ですでにお斎の有無が決まっているため、案内状に「誠に勝手ながらお斎は控えさせていただきます」と記載すれば、参列者が予定を立てやすくなり当日も誤解や混乱を防ぎやすくなります。
もし案内状を送付した後にお斎の実施を見送ると決定した場合は、電話やメール、口頭で参列予定者全員に丁寧に連絡しましょう。
持ち帰り用の仕出し弁当を渡す
お斎を会場で行わない場合でも、持ち帰り用の仕出し弁当を用意し、参列者へ感謝の気持ちを伝えます。仕出し業者に依頼する際には、「法事用のお弁当」である旨をあらかじめ伝えれば、落ち着いた献立や包装など、法事に適した料理を用意してもらえるでしょう。
お弁当の価格は香典をいただくことを前提に、通常のお斎と同程度の金額を用意するのが一般的です。またお弁当と共に返礼品を添えて渡すと、より丁寧な印象を与えます。
香典を辞退する
お斎を行わない場合には、香典を辞退するという選択肢もあります。というのも香典には本来、お斎の費用も含まれているという考え方があるため、会食などのもてなしを伴わないのであれば「香典辞退」とする旨を案内状や招待状に明記しておくのも気配りの一つです。
近年では、香典だけではなくお斎や返礼品も全て省略した、簡素で負担の少ない形式の法要を選ぶ方が増えています。経済的負担や準備の手間を抑えながらも、故人をしのぶ心を大切にするスタイルは、多忙な現代のライフスタイルにも合っているといえるでしょう。
また参列者にとっても気兼ねなく葬儀に参列できるという点で受け止められる傾向にあります。
お斎に参列する際のマナー
お斎に参列する際は、遺族への配慮や場の雰囲気を大切にする姿勢が大切です。形式ばった場ではないものの、故人をしのぶ場であることを念頭に置き、最低限のマナーを理解しておきましょう。ここでは招待されたときの対応や当日の振る舞い、服装などを具体的に解説します。
お斎に招待されたら参列する
法事の案内状が届いたら、できるだけ早めに出欠の返事を出すのが礼儀です。お斎には、ただの食事という意味ではなく、故人の供養や遺族との心のつながりを大切にする目的もあるため、参加の意思がある場合は速やかに連絡を入れましょう。
やむを得ず当日参加できなくなったときでも、施主に一言断りを入れて感謝とお詫びの気持ちを伝えることが望ましいです。直接言葉にできない場合には、手紙やメールなどで心遣いを伝えると誠実な印象を与えるでしょう。
お酒の席で羽目を外さない
お斎はあくまでも供養の一環であり、宴会とは異なります。つい話が盛り上がって声が大きくなったり、お酒を無理に勧めたりすると他の参列者や遺族に不快感を与える可能性があるので注意しましょう。
故人の思い出を語り合う時間であっても、節度を持った態度が求められます。また長時間居座るのではなく、ある程度時間が経過したら静かに席を立つなど、施主を始めとした周囲への気遣いも忘れないことも大切です。
お斎にふさわしい服装
お斎は法要に続いて行われるため、基本的にはそのままの服装で参加します。男性は落ち着いた色味のスーツ、女性は黒やダークグレーのワンピースやセットアップなど、喪服またはそれに準ずる服装が一般的です。
男性の場合、会場の暑さで上着を脱ぐ程度は構いませんが、ネクタイを緩めたりシャツのボタンを開けたりするなど、だらしない印象を与える着こなしは避けましょう。女性は肌の露出が少ない、控えめな服装が望ましいです。
またお斎の準備や配膳などを手伝う予定がある場合には、事前に着替えられるよう黒っぽい上着などを用意しておくと良いです。
法事の服装やマナーを詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
まとめ
お斎は、故人とご縁のあった方が集い、思い出を語り合いながら故人との別れに向き合う大切な時間です。形式にとらわれ過ぎず、「感謝」と「思いやり」の心を持って準備・対応するようにしましょう。
不安や迷いがある場合は、専門知識を持つ葬儀社に相談するのがおすすめです。株式会社サン・ライフでは、故人・家族のご希望に寄り添いながら心に残るご法要のお手伝いをしております。小さな疑問にもお答えしますので、お気軽にご相談ください。
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